最新記事

癌治療

カーターの癌は消滅したが、寿命を1年延ばすのに2000万円かかるとしたら?

医学博士の著者らは、カーターの奇跡的生還をもって癌治療薬の莫大な開発費は正当化されると主張するが

2016年2月4日(木)17時30分
チャールズ・ボルチ、ジョン・カークウッド

まだ例外的 ステージ4のメラノーマを免疫療法で克服したカーター Joshua Roberts-REUTERS

 アメリカのジミー・カーター元大統領は昨年12月、最新の免疫療法で癌がほぼ消えたと発表した。カーターは数年前、致死性が特に高いタイプのメラノーマ(悪性黒色腫)と診断された。死刑宣告を受けたも同然だった。

 多くの患者に希望を与えたこのニュースは、メラノーマ治療の目覚ましい進歩を印象づけると同時に、より有効な治療薬の開発を支援する政策の重要性も浮き彫りにした。

 カーターは退任後は人道支援活動に取り組んできたことでも知られる。癌を克服し、ライフワークに復帰できたのは、「患者の免疫システムに癌を攻撃させる、まったく新しいタイプの治療薬」のおかげだと主治医は語っている。

 私たちは数十年の研究・臨床経験を持つ癌の専門家として、同僚の医師たちや製薬業界と共同で免疫療法の開発に取り組んできた。この分野の研究がもどかしいほど後れている状況を身をもって知っている。

メラノーマの余命が延びた

 新しい治療が高くつくことを問題にする声があるのは当然だが、一般の人たちも、政策立案にかかわる人たちも、これを機会に研究開発への投資の重要性を理解してほしい。新薬は患者に測り知れない恩恵をもたらす。

 癌などの疾患の治療薬の値段が驚くべきペースで上がっていることは否めない。

 96年には新型の癌治療薬は、寿命1年ごとにざっと5万4000ドル(約670万円)だった。13年にはそれがほぼ4倍の20万ドル(約2360万円)になった。

 この問題は社会政治・経済の観点で議論されているが、患者の寿命が劇的に延びたこと、生活の質が大幅に改善されたことを薬価に関する議論から外してはならない。

 11年には、カーター元大統領と同じく、肝臓と脳に転移したステージ4のメラノーマと診断された患者の平均余命は3~6カ月だった。それまでの30年間、治療上の大きな進歩はなかった。このタイプの患者の大多数には既存の治療薬は効果がなく、民間療法などに頼って症状を悪化させるケースが多かった。

 その後の進展は奇跡と言っていい。11年以降、製薬会社は3種類の主要な免疫治療薬の実用化にこぎつけた。今では免疫療法は患者の3分の2に有効で、効果が現れた患者の過半数は当初の予想より何年も余命が延びている。

 カーター元大統領のように、新型の免疫治療薬の投与と標的を絞った放射線療法の併用治療を数カ月行って寛解した患者も多くいる。

 このタイプの患者の場合、化学療法は効果が一時的で、副作用が強い上、患者は家族と職場から長期間引き離されることになる。化学療法以外の治療の選択肢ができただけでも画期的なことだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

英サービスPMI4月改定値、約1年ぶり高水準 成長

ワールド

ノルウェー中銀、金利据え置き 引き締め長期化の可能

ワールド

トルコCPI、4月は前年比+69.8% 22年以来

ビジネス

ドル/円、一時152.75円 週初から3%超の円高
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中