最新記事

スタンフォード大学 集中講義

「解決策を100個考えなさい」とティナ・シーリグは言った

「独創的なアイデアを生み出すには粘り強さが必要」――米名門大学で教えられている人生を切り拓く起業家精神の教え(6)

2016年2月26日(金)14時48分

イノベーションはハードワーク 起業家育成のエキスパート、ティナ・シーリグ教授は「Creativity: Music to My Ears」と題した2万5000人の受講者がいるオンライン講座で、ハードワークが要求される課題を出した Pinkypills-iStock.

 想像してみてほしい。チームで取り組むプロジェクトで、講師が「課題の解決策を最低100個考えてください」と言う。10ではなく、100だ。なんとかアイデアを100個考えると、その中から1つ選び、プロトタイプをつくり、ユーザーの意見を集めて授業で発表するよう求められる。そして発表後、講師がこう言うのだ。「最初からやり直してください」

 この講義に一体どんな意味があるのだろうか。

 スタンフォード大学の起業家育成のエキスパート、ティナ・シーリグ教授は、新刊『スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義』(高遠裕子訳、三ツ松新解説、CCCメディアハウス)で、そんな講義を紹介している。以下、本書の「第7章 粘り強く続ける――何がボートを浮かせるのか」から抜粋する。

◇ ◇ ◇

 二〇一四年の春、ワーナー・ブラザース・レコードと共同で、「Creativity: Music to My Ears」と題したオンライン講座を開講しました。講座の課題はすべて音楽をテーマにします。たとえば、二万五〇〇〇人にのぼった受講者全員に、自己紹介代わりに自分の人生を象徴するようなアルバムのカバーデザインを考えてもらいました。他には、身のまわりで聞こえる音をマインドマップにしてもらう課題や、講座で学んだことを最後に歌詞にしてもらう課題を出しました。

 二週間にわたってチームで取り組むプロジェクトでは、音楽で問題を解決することをテーマにしました。受講者は七人までのチームをつくり、NovoEdプラットフォームで入手できる共同作業のツールを使います。なかには異なる大陸の受講者が集まったチームもあり、それぞれが独自の見方を持ちこみました。各チームは、解決すべき問題をひとつ選びます。たとえば、パートナーのいびきや、家庭での節電といった問題です。まずは、選んだ問題について、解決策を最低一〇〇個考えます。どれも何らかの形で音楽が関係していなくてはなりません。多くの受講者は、一〇〇個も考えるなんてばからしいと思います。じつは、タイプミスに違いないと思い、クラスのブログに「ティナは一〇個と書くつもりだったに違いない。一〇〇個なんてハード過ぎる」と書き込んだ受講生がいました。

 私はこう返しました。「そこがポイントです。イノベーションはハードワークです。独創的なアイデアを生み出すには粘り強さが必要なのです」。そもそもハードな課題なのだとわかると、ほとんどのチームが本気を出し、産みの苦しみを乗り越えて一〇〇個以上のアイデアを出してきました。

 この課題を通じて、受講生が発見したことがあります。いちばん面白いアイデアは、もうアイデアが出尽くしたと思った後に出てくる、ということです。たとえば、パートナーのいびきを解決する方法としては、当たり前の案が出尽くした後に、大きないびきを癒しの音楽に変換するフェイスマスクをつくる、という画期的なアイデアが出てきました。家庭の省エネ問題に取り組んでいたチームは、エネルギーの消費量に応じた音楽をかける案を思いつきました。エネルギーの消費量が少なく、家庭が「ハッピー」であれば、楽しい曲がかかるので、いちいちモニターで消費量をチェックする必要はありません。逆に消費量が多いときは、「アンハッピー」な曲で教えてくれます。

 オンライン講座では、インスピレーションを高めてもらおうと、ジョシュ・グローバンやジェイソン・ムラーズ、リンキン・パークのマイク・シノダら、ワーナー・ブラザース所属の有名アーティストのインタビュー動画も配信しました。共通のテーマとして、曲づくりの過程と、完成した楽曲をファンに届ける過程で、どんな苦労があるかを話してもらいました。彼らの曲は、細部まで作り込まれています。何度となく曲や詞を書き直し、何か月もかけて制作されているのです。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米財務長官、中国副首相とマレーシアで会談へ

ワールド

全米で反トランプ氏デモ、「王はいらない」 数百万人

ビジネス

アングル:中国の飲食店がシンガポールに殺到、海外展

ワールド

焦点:なぜ欧州は年金制度の「ブラックホール」と向き
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みんなそうじゃないの?」 投稿した写真が話題に
  • 4
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 5
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 6
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「リンゴの生産量」が多い国…
  • 8
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 5
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中