最新記事

東アジア

中国は北朝鮮をめぐり、どう動くのか?

2016年1月13日(水)16時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 このときに毛沢東が使った言葉が「唇亡歯寒(唇なくば、歯寒し)」という中国の故事成句だ。

 かつてはソ連とのパワーバランスにおいて、そして今はアメリカとのパワーバランスにおいて、「俺様がいなければ、お前は困るんだろう?」と中国の足元を見ては「やりたい放題」をする北朝鮮。中国の怒りとジレンマがいかほどのものか、想像できるだろう。

中国の責任を詰め寄るアメリカ

 その中国を「北朝鮮を説得できるのは中国だけだ」として、中国が十分な抑止力を発揮していないことを、アメリカは非難している。

 中国外交部の報道官は、「関係国全員の責任ではないのか?なぜ中国にだけ責任を押し付けるのか?関係国は自分の胸に手を当てて自問自答するがいい」と抗議した。

 事実、1992年の中韓国交正常化で最悪の仲となった中朝関係は、1994年にアメリカと北朝鮮の間に米朝枠組み合意(2002年に完全崩壊)が出来上がると一変し、改善の兆しを見せた。中国の北朝鮮への経済支援を担保にした上だったが。

 米朝合意が崩壊した翌年である2003年から、中国は六カ国会談を提案して北京で何度か朝鮮半島の非核化に向けて北朝鮮を交えて努力してきた。

 しかし今さら、六カ国会談など、もう夢のまた夢だ。

 朝鮮半島の非核化は、遠のくばかりなのである。

 その責任はすべて中国にあると言っていいだろうか?

 中国は北朝鮮の改革開放を目指して、中朝貿易をも盛んにさせてきた。それを率先して動かしてきた張成沢(チャン・ソンテク)氏が公開処刑されてからは、もう朝鮮半島の非核化など、元に戻せるはずがない。

 かといって、アメリカもまた今さら米朝合意のようなことはできまいし、今になってそれをやれば、北朝鮮の脅しという瀬戸際外交に負けたことになってしまう。

 中国が「唇」を無くすことを恐れず、陸続きで米軍が駐在していることを容認できるのなら、北朝鮮への支援(の抜け穴)を本気で断(た)ってしまえば済むことではある。

 その可能性を模索するためには、70年代のキッシンジャーによる忍者外交のような米中の接近が必要となってくる。

 今はロシアが、それを許さないだろう。

 出口のないトンネルのようだが、このジレンマは中国だけのものではないことにも、目を向ける必要があるかもしれない。

[執筆者]
遠藤 誉

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は大幅反落800円超安、前日の上昇をほぼ帳

ビジネス

焦点:国内生保、24年度の円債は「純投資」目線に 

ビジネス

ソフトバンク、9月30日時点の株主に1対10の株式

ビジネス

ドイツ銀、第1四半期は予想上回る10%増益 投資銀
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中