最新記事

米大統領選

あの男が広めた流行語「PC」って何のこと?

真っ向からそれを否定するトランプのおかげでキーワードとなったが、人々が「政治的に公正でない」暴言に喝采を送るのには理由がある

2016年1月28日(木)17時15分
小暮聡子(ニューヨーク支局)

PC= Politically Correct 「政治的に公正じゃないことは分かっているんだけど……」を枕ことばに次々と暴言を吐くドナルド・トランプだが、その「戦い」に多くの国民が同調している Scott Morgan-REUTERS

 気が早いけれど、日本の今年の流行語大賞候補は「卒論」とか「センテンススプリング」らしいですね(ほんと?)。一方で、今年11月に大統領選挙を控えるアメリカで大流行している言葉と言えば、「Political Correctness(ポリティカル・コレクトネス)」。略して「PC」だ。

 ポリティカル・コレクトネスとは、差別や偏見に基づいた表現を「政治的に公正」なものに是正すべきという考え方のこと。主に人種や性別、性的嗜好、身体障害に関わる用語や認識から差別をなくすことを言う。

 アメリカでは80年代ごろからたびたび論争を呼んできた言葉だが、昨年からは一層頻繁に耳にするようになった。共和党の大統領候補指名獲得レースで首位を独走中のドナルド・トランプが声高に叫び、同時にそれを真っ向から否定しているからだ。

 トランプが身も蓋もない暴言を吐き、支持者たちが拍手喝采するたびに聞かれるのが、この「ポリティカル・コレクトネス」という言葉。トランプは、「ポリティカリー・コレクト(政治的に公正)じゃないことは分かっているんだけど......」とあらかじめ「言い訳」した上で、政治的に公正でないことを大声で言う。これに対して支持者も、「トランプの発言がPCじゃないのは分かっているけど......」と前置きしてから、「彼はみんなが心の中で思っていても言えないことをただ口にしているだけだ」と擁護する。

 私は初め「I know it's not PC, but...」という言い回しを聞いて、何のことやら分からなかったが、このフレーズはどうやら開き直る際の枕ことばのようだ。

 トランプの暴言語録は枚挙に暇がない。例えば:

「(移民政策の一環として)わが国が現状を把握できるまで、イスラム教徒のアメリカへの入国を包括的かつ完全に禁止することを要求する」
「メキシコからの移民は(アメリカに)麻薬を持ってくる。犯罪を持ってくる。彼らはレイプ魔だ」
「(同じ共和党の女性候補カーリー・フィオリーナについて)あの顔を見てみろよ! あれに投票する人なんているのか? あの顔が次の大統領だなんて想像できるか!?」
「(FOXニュースの女性アナウンサーで、トランプを批判したメギン・ケリーに対して)彼女の目から血が流れているのが分かっただろう。流血していた、彼女自身のどこかから」

 こうした発言は「政治的に公正」とは言いがたく、特にイスラム教徒の入国禁止はヒトラーのユダヤ排斥を彷彿させるほど差別的だ。それなのに、トランプは現在も共和党候補者の間で支持率41%と驚異的な人気を誇っている。なぜなのか。

 理由の1つは、トランプが大統領選のライバルたち以前に、アメリカの「政治的公正さ」への戦いを挑んでいること。そして、多くの国民がその戦いに同調している。

 ポリティカル・コレクトネスという概念は、もとは60年代の公民権運動や女性解放運動、ゲイ解放運動など差別是正運動の流れの中で芽吹き、80年代に大学を中心に実践されるようになった。多民族・多文化社会のアメリカにおいて、マイノリティーや弱者に寛容になろう、という呼びかけだったともいえる。

ニュース速報

ビジネス

正午のドルは112円前半、さえない株価や米長期金利

ワールド

EU、イラン核合意を改めて支持 米議会に制裁再発動

ビジネス

情報BOX:第2回日米経済対話、共同声明の要旨

ビジネス

前場の日経平均は11日続伸、米株高受け連日の高値更

MAGAZINE

特集:中国予測はなぜ間違うのか

2017-10・24号(10/17発売)

何度も崩壊を予想されながら、終わらない共産党支配──。中国の未来を正しく読み解くために知っておくべきこと

グローバル人材を目指す

人気ランキング

  • 1

    ポルノ王がトランプの首に11億円の懸賞金!

  • 2

    トランプ「ユネスコ脱退」、習近平「高笑い」

  • 3

    オーストリアで「世界最年少」首相誕生へ 31歳が唱えるニューポリティックス

  • 4

    年内にも発売されるセックスロボット、英研究者が禁…

  • 5

    早わかり衆院選 主な争点別の各党の選挙公約

  • 6

    北朝鮮との裏取引を許さないアメリカの(意外な)制…

  • 7

    米軍は北朝鮮を攻撃できない

  • 8

    イタリア老舗ブランドの、本革じゃないバッグを選ぶ…

  • 9

    アベノミクスが雇用改善に寄与した根拠

  • 10

    第二言語習得の研究から見た、「勘違いだらけ」日本…

  • 1

    米軍は北朝鮮を攻撃できない

  • 2

    イージス艦事故の黒幕は北朝鮮か? 最強の軍艦の思わぬ弱点

  • 3

    トランプがアメリカを第3次世界大戦に導く危険を冒す

  • 4

    北朝鮮の送電網を破壊する、韓国「ブラックアウト爆…

  • 5

    自転車大国オランダ、信号機を消してみたら起きたこ…

  • 6

    通勤時間というムダをなくせば、ニッポンの生産性は…

  • 7

    北朝鮮との裏取引を許さないアメリカの(意外な)制…

  • 8

    ポルノ王がトランプの首に11億円の懸賞金!

  • 9

    カズオ・イシグロの「信頼できない語り手」とは

  • 10

    北朝鮮の金正恩が愛する実妹ヨジョン 党中枢部入り…

  • 1

    「クラスで一番の美人は金正恩の性奴隷になった」

  • 2

    「北朝鮮はテロリストだ」 北で拘束された息子は異様な姿で帰国し死んだ

  • 3

    北朝鮮はなぜ日本を狙い始めたのか

  • 4

    「金正恩の戦略は失敗した」増大する北朝鮮国民の危…

  • 5

    トランプの挑発が、戦いたくない金正恩を先制攻撃に…

  • 6

    米軍は北朝鮮を攻撃できない

  • 7

    北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは...

  • 8

    中国が北朝鮮を攻撃する可能性が再び----米中の「北…

  • 9

    米朝戦争が起きたら犠牲者は何人になるのか

  • 10

    カンボジアで飼育されている巨大変異ブタ、安全なの…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

全く新しい政治塾開講。あなたも、政治しちゃおう。
日本再発見 シーズン2
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版 特別編集

最新版 アルツハイマー入門

絶賛発売中!

STORIES ARCHIVE

  • 2017年10月
  • 2017年9月
  • 2017年8月
  • 2017年7月
  • 2017年6月
  • 2017年5月