最新記事

中国共産党

毛沢東は日本軍と共謀していた――中共スパイ相関図

2015年11月16日(月)15時23分
遠藤 誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 しかし筆者はこのたび、日中双方の資料を突き合わせることによって、事実はまったく逆であったことを明らかにした。日本側資料によって、その決定的証拠をつかむことができたからだ。これまで中国側だけの資料に基づいて分析したものはあるが、日本側の証言と照らし合わせて日中戦争時の中共のスパイ活動を証明したのは、これが初めての試みではないかと思っている。

 そもそも、もし、中共スパイが日本軍に関する情報を入手し延安にいた毛沢東らに渡す役割を果たしていたのなら(つまり、情報を入手するために岩井英一と接触していたのなら)、日本側から巨額の「情報提供料」をもらうのは、明らかにおかしい。整合性がない。

 それに日本軍の情報入手のためにのみ潘漢年や袁殊がスパイ活動をしていたというのなら、毛沢東はなにも潘漢年らを「知り過ぎていた男」として投獄し、終身刑にする必要はなかったはずだ。

 毛沢東の戦略はあくまでも、天下を取るために政敵である蒋介石が率いる国民党軍を弱体化させることにあった。そのためには日本軍とだろうと、汪兆銘傀儡政権とだろうと、どことでも手を結んだということである。自分が天下を取ることだけに意義がある。そのためなら何でもした。それだけのことだ。

 これがいま、習近平国家主席が慕ってやまない、あるいはそのポーズを取ることによって自らを神格化しようとしている、「建国の父」の真の姿なのである。

日本はこの事実を最強の外交カードにしなければならない

 この事実ひとつからも、中国共産党政権である中国には、日本に歴史認識カードを掲げる資格はないことが、ご理解頂けるものと思う。歴史を直視しないのは、中国共産党政権なのである。

 したがって、中国が掲げる歴史認識問題の負のスパイラルから日本を救うには、「日中戦争時代、毛沢東が日本軍と共謀していた事実」を中国に突きつける以外にない。この事実を国際社会の共通認識に持っていくしか道はないのだ。実は中国国内にも、中国共産党史を見直すべきだという声がかなり出てきている。

 ただ懸念されるのは、11月11日付の本コラム「中台密談で歴史問題対日共闘――馬英九は心を売るのか?」で書いたように、習近平国家主席は台湾の国民党さえをも抱き込んで日中戦争時における中共軍の歴史的事実の歪曲と捏造を決定的なものとし、歴史問題で対日共闘をもくろんでいることである。もし国民党自身が中共の歴史捏造を受け容れたら、習近平の策謀は強化され、日本には非常に不利になるだろう。そのような状態を看過することはできない。

 だからこそ逆に、本論で書いた事実を日本の最強の外交カードとすべく、日本は一刻も早く論理武装をしなければならないのである。この問題に関しては、引き続き論じていく。

(なお本論は、日中戦争における日本軍の行為自体を議論しているのではなく、あくまでも中華人民共和国はいかにして日本軍を利用しながら誕生したのかを指摘しているだけである。)


[執筆者]
遠藤 誉

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 7

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 8

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中