最新記事

難民問題

ドイツがアフガン難民の大半を本国送還へ

メルケルが「すべての難民を受け入れる」と言ってからわずか2カ月、難民の選別が始まった

2015年10月30日(金)16時30分
フェリシティ・ケーポン

安住の地はどこに ドイツでの難民登録を求め、ハンガーストライキをするアフガニスタンやイランの難民たち(ベルリン、10月25日) Thomas Peter-REUTERS


 ドイツのトーマス・デメジエール内相は今週、アフガニスタン難民の大半を本国に送還する、と発表した。今年大規模な難民受け入れを表明したドイツだが、ここへ来て難民への対応は厳しくなってきている。

 デメジエールは今週行った会見で、アフガニスタンの反政府勢力タリバンが支配したり、戦闘が継続している地域から逃れてきた人、帰国後にタリバンの脅威にさらされる恐れのある人は引き続き難民として扱われるが、それ以外はアフガニスタンに送還する、と語った。

 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、今年ヨーロッパには中東やアフリカからは、地中海を越えて56万人以上の難民が押し寄せている。アフガニスタンからの難民はそのうち20%以上を占める。デメジエールは「とても受け入れられない」と語った。

 現在、難民申請を却下されたアフガニスタンの難民は、本国での安全が確認できないため送還されずにドイツに留まっている。英紙テレグラフによると、彼らにはドイツでの滞在は認められているものの、法的な権利は与えられず、働くことはできない。

本国にいても安全な「難民」もいる

 デメジエールは、新たな人生を求めてドイツにやってきたアフガニスタン「難民」の多くは、一般に安全と見なされている首都カブールの中間層だと言う。彼らは「祖国に残って国の復興を助けるべきだ」と訴えている。

 だが紛争地帯の状態を把握するのは難しい。イギリスでは今年4月、難民申請を却下されてアフガニスタンへ送還される56人が乗った飛行機が、離陸寸前で裁判所に止められる騒動もあった。アフガニスタンの難民担当相が、「国土の80%は帰国には危険だ」と証言したためだ。

 アフガニスタンと同様、安全な地域と見られているバルカン半島からの難民数万人も、今年中に送還されることになっている。ドイツ政府は難民申請者の母数を減らして難民登録の処理速度を上げたい方針で、デメジエールは「今後数週間で、本国送還と自主帰国の人数は一気に増えるだろう」と予想している。

 ドイツ政府が政策転換したのは、ドイツ国民の難民に対する姿勢が変わったからだ。ドイツには今年だけで150万人の難民が押し寄せるといわれ、とても支えきれないと、難民受け入れに積極的だったアンゲラ・メルケル首相に圧力がかかっている。

 今週、バイエルン州首相のホルスト・ゼーホーファーはメルケルに対し、難民の受け入れを制限するよう要求した。最近の世論調査では、メルケルの支持率は過去3年で最低のレベルに下がっている。

 デメジエールはさらに、隣国オーストリアが難民を夜間にドイツ国境に連れて来ていると非難した。「難民が一切の支給品も与えられず、先の見通しもないまま、夜間にドイツ国境に連れて来られているのを確認した」と、会見で明らかにした。

 欧州諸国の間の難民の押し付け合いも激しくなる一方だろう。

<関連記事>
ヨーロッパを覆う「難民歓迎」の嵐
ドイツが「国境開放」「難民歓迎」を1週間でやめた理由

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中