最新記事

人災

インドネシアの煙害は「人道に対する罪」レベル

野焼きによる森林火災と「煙害(ヘイズ)」が人命を危険にさらしている

2015年10月28日(水)18時05分
ニック・ウィンチェスター

何も見えない 呼吸器疾患の患者は50万人、死者も10人に Antara Foto/Wahdi Setiawan-REUTERS

 インドネシアで野焼きによる森林火災が「人道に対する罪」に相当する被害をもたらしている。英ガーディアン紙によれば、呼吸器疾患等による死者は10人、患者は50万人に達した。

 森林火災は、パーム油増産のための「野焼き」によって引き起こされたもの。場所はスマトラ島南部、カリマンタン島中南部、パプア(ニューギニア島の西半分)に集中しており、火災により引き起こされた「煙害(ヘイズ)」はに4300万人に達していると、インドネシア気象・気候・地球物理庁のヌグロホ報道官は先週末に語った。

「凄まじい規模の人道に対する罪だ」と、ヌグロホ報道官は言う。「しかし今は、犯人探しをしている場合ではなく、一刻も早い問題解決に集中しなければならない」

 東南アジアでは例年、乾季になるとある程度のスモッグ(煙霧)は発生していた。農園などで、手っ取り早くパーム油や紙・パルプ生産のための耕作地を増やすべく焼畑農法を行うためだ。

グローバルな需要が引き金

 火災は通常、農園などに範囲を限定されているのだが、そこから燃え広がっているのが現状だ。今年9月以降、煙害は周辺国にも拡大し、隣国のシンガポールでもマレーシアでも大気汚染指数が悪化。学校が休校になり、航空便がキャンセルになるなどの被害が広がっている。

 シンガポールのストレーツ・タイムズ紙は、スマトラ島で起こる火災の半数以上はパルプ生産に起因すると報じている。残る半数が、パーム油生産に関連する火災だとみられる。世界自然保護基金(WWF)によると、パーム油は国際的に取り引きされる植物油の65%を占める。

 パーム油は、マーガリン、パン、朝食シリアル、カップラーメンといった食品、シャンプー、リップスティック、ろうそく、洗剤といった日用品、さらには一部の薬にも使われている。

 被害を被っているのは人間だけではない。熱帯雨林に生息するオランウータンが危機に瀕しており、インディペンデント紙によると、世界のオランウータンの3分の1が生存を危ぶまれている。

 アメリカの世界資源研究所は今年9月以降、インドネシアの火災による1日あたりの汚染物質排出量は、同国の20倍の経済規模を持つアメリカの1日あたり排出量を上回ると推測している。

 インドネシアのジョコ・ウィドド大統領は9月、森林火災の責任を負うべき企業には断固とした処置を取ると言明。今週は初訪米を途中で切り上げて煙害対策のために帰国することを決めている。報道によれば、緊急事態宣言が発令される可能性もある。

 12月にパリで開催される国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)を目前に、インドネシアの煙害対策には国際的な圧力がかかっている。東南アジアが青空を取り戻すのは、果たしていつになるか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国万科、債権者が社債償還延期を拒否 デフォルトリ

ワールド

トランプ氏、経済政策が中間選挙勝利につながるか確信

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 5
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 6
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 7
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 10
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中