最新記事

中国

天津爆発事故後も相次ぐ「爆発」は江沢民派の反撃か

批判を封じ込めた政府の「完璧」な対応と、各地で頻発する爆発事故が意味するもの

2015年9月10日(木)16時42分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

虚構のイメージ 数年前には「スイカ爆発」がニュースになったが、今こそ節度ある報道とメディア・リテラシーが求められている Spondylolithesis – iStockphoto.com

 2015年8月12日の天津爆発事故から約1カ月が過ぎた。国民の批判を封じ込めた中国政府の対応、そして天津以外で連続した、一連の「爆発」事件について考えてみたい。

 事故について簡単に振り返っておこう。天津港にある危険物物流センターで2度にわたり巨大な爆発が起きた。1回目の爆発はマグニチュード2.3、2回目が2.9という凄まじい威力だった。事故原因についてはいまだに最終的な調査結果が発表されていないが、まず火災が起き、消防隊がむやみに放水したため化学物質が反応して爆発したとの説が有力視されている。当局発表によると、9月1日時点で確認された死者数は159人、なお14人が行方不明となっている。

 もっとも、公式統計の犠牲者は約3分の2が警察官と消防隊員で占められている。大きな被害を受けた近隣のマンションや、ほぼ吹き飛ばされた工事現場従業員宿舎の被害が正しくカウントされているのか、疑問視する声もある。また飛散した化学物質による健康被害、環境汚染を懸念する声もある。いまだに事故原因が特定されていないことも含め、当局の事後対応には問題が多いが、世論対策だけはパーフェクトだ。

 強力なメディア検閲によって批判的な報道を封じこめた。人民解放軍による、危険をかえりみない「英雄的」現場処理が大々的に喧伝された。毒ガスが発生しているのではという懸念には、事故現場に動物を入れた檻を置き健康被害はないことをアピールした。また、事故によって損害を受けた近隣マンション住民には返金や代替住宅の提供といった補償プランをはやばやと打ち出した。サインをしぶる住民には圧力をかけ、すでに9割近い住民が合意したと伝えられる。

天津の事故現場には早くも公園の建設計画が

 事故現場にエコパーク(生態公園)を建設する計画も発表された。なにやら大層な名前だが、実際には緑豊かな公園に過ぎない。公開されたコンセプト図によると、中央に大きな池がある。爆発でできた大穴を再利用するという大胆なプランだ。事故の記念碑が作られるほか、「ハイレベル」な学校と幼稚園も併設される計画だ。エコという耳あたりの良い言葉でマイナスイメージを払拭し、学校を作ることでこの区域の住宅価値を底上げしようという狙いがある。

 中国では有力な学校に入学するために、その学区内のマンションを買う人までいるほど。ハイレベルな学校を作るハードルは高いが、もし実現すれば近隣の不動産価格を底上げするだけに、住民にとっては大きな恩恵をもたらすものとなる。公園本体は今年11月には着工し、来年7月には完成する予定だ。小学校、幼稚園は2016年完成予定。

 この計画をみると、事故をさっさと過去のものにしようとしていることは明らかだ。拙著『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』で詳述したが、習近平体制はネット世論の批判を封じ込める能力を飛躍的に高めた。今回の爆発事故でもその能力は遺憾なく発揮されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏CPI、4月はサービス上昇でコア加速 6月

ワールド

ガザ支援の民間船舶に無人機攻撃、NGOはイスラエル

ワールド

香港警察、手配中の民主活動家の家族を逮捕

ビジネス

香港GDP、第1四半期は前年比+3.1% 米関税が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中