最新記事

中国

南シナ海、民間人の「入植」が対中国の切り札か

実効支配の既成事実化のため各国が居住用インフラの整備を急ぐ 

2015年6月1日(月)14時22分

5月29日、中国が進める人工島建設が注目を集める南シナ海情勢だが、同海域一帯で増える一般市民の存在も領有権問題では重要な意味を持つと専門家は指摘する。写真はフィリピンが実効支配するパグアサ島で11日代表撮影(2015年 ロイター)

[香港/マニラ 29日 ロイター] - 中国は南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島で人工島の建設を進めており、その軍事利用の可能性をめぐる議論が過熱している。一方、そうした問題に隠れ、ほとんど注目されていないことがある。それは、南シナ海一帯で増えつつある一般市民の存在だ。

ベトナムとフィリピンがそれぞれ実効支配する小さな島では、子供たちが毎日学校に通っている。そこからさほど遠くない場所では、中国が灯台や気象観測所を建設している。領有権をめぐる争いが高まるなか、このような傾向は今後起こり得る軍事衝突を複雑にする恐れがある。

同海域の大半の島は台風などの災害に無防備で真水も少ないため、こうした動きは小規模な範囲に限られるとみられている。しかし専門家たちは、領有権を争う他の国々にとって、市民生活の積み上げは重要な意味を持つと指摘する。

東南アジア研究所(シンガポール)の南シナ海専門家、イアン・ストーリー氏は「法的立場を確実に強化する。軍事だけでなく、一般市民も含めることで効果的な統治を明確に示すことができるからだ」と指摘。そのうえで、「南シナ海の領有権問題が国際司法裁判所に付託された場合、そのことが重要となるだろう」と語った。

中国は南シナ海の大半で領有権を主張。年間5兆ドルの貨物が行き交う海上交通の要衝である同海域では、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイ、台湾も一部領有権を主張している。ブルネイ以外は、南沙諸島に軍施設を有している。

同諸島で中国は少なくとも滑走路1本や他の軍事施設の建設を押し進めるが、同国当局はこうした作業の民間的な側面を強調している。

中国外務省国境海洋事務局の欧陽玉靖局長は、国営メディアに対し、中国は南沙諸島での施設を軍事利用する「あらゆる権利」があるとしたうえで、施設は「主に民間目的」に使われるだろうと語った。

同局長はそうした民間利用の例として、海難救助や防災、科学的研究、気象観測などを挙げた。26日の国営メディアの報道によると、中国は南シナ海で灯台2基の起工式を行った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

バイデン氏のガザ危機対応、民主党有権者の約半数が「

ワールド

米財務長官、ロシア凍結資産活用の前倒し提起へ 来週

ビジネス

マスク氏報酬と登記移転巡る株主投票、容易でない─テ

ビジネス

ブラックロック、AI投資で各国と協議 民間誘致も=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中