最新記事

朝鮮半島

北朝鮮、男性中心社会を支える闇マーケットと女たち

2015年5月26日(火)13時35分

<無力な夫>

こうした闇市場での収入は、大きな額ではないことがほとんどだ。

市民団体「北朝鮮人権市民連合」が2011─12年に脱北女性60人を調査したところ、闇市場での収入は1カ月に5万─15万ウォンであることが多かった。韓国の北朝鮮専門ネット新聞「デイリーNK」によると、ウォンのブラックマーケットでの「実勢レート」では約6─18ドル(約730─2200円)程度。一方、国家の仕事で得られる1カ月の給料は2000─6000ウォンで、恵山市で売られるコメ1キロの価格8490ウォンよりも少ないという。

脱北者の多くは北東部出身であり、都市部の市場参加者は地方に比べて稼ぎがはるかに多いとも考えられている。

北朝鮮は経済統計を公表しておらず、国民の多くは非公式な仕事に就いているため、ロイターは同国の雇用や所得に関するデータを独自に確認することはできない。

ソウルにいる女性脱北者たちによれば、北朝鮮では昨今、結婚相手として最も望ましい独身男性に、市場を監督する労働党幹部が入っているという。

自身も脱北者で、脱北女性1500人との結婚仲介業を営むKim Min-jungさんは「北朝鮮でいい暮らしを送りたいなら、市場で商売するか、そうした市場でモノを売る女性から賄賂や税を徴収する男性と結婚するか、もしくは国家の貿易会社で働くかだ」と語った。

北朝鮮の女性たちは、同国の男性が「一日中消えている明かり」のようだと不平を漏らすという。「家族のために金を稼ぐという意味で、北朝鮮男性がいかに役立たずかということを物語っている」とKimさんは話す。

経済力を手にした北朝鮮女性の間では、離婚を望む人も増えていると専門家は指摘する。大韓弁護士協会による103人の脱北者を対象にした最近の調査では、経済力のなさが離婚の主な理由だった。

近年、韓国への脱北者の大半は女性で占められている。男性と比べて、女性は仕事に縛られず、移動の自由度が高い。

====

女性による市場支配は、専業主婦を理想とする北朝鮮の家父長的文化にも変化をもたらしている。国営メディアが制度的な男女平等を促進する一方、北朝鮮は長い間、男性優位の社会だった。しかし、マネーがそれを変えつつある。

ソウルに拠点を置く「Center for Korean Women and Politics」の責任者で、脱北者に定期的にインタビューを行っているKim Eun-juさんは「北朝鮮の生活水準は国家ではなく、女性のビジネス能力やスキルに依存している。女性は市場経済を通して、国家の役割を果たしている」と指摘。「男性たちは今、市場で結婚相手も探している」と述べた。

前出の脱北者、大学生のJungさんは次のように語る。「北朝鮮の女性は独立心があり、強い。国家が国民を養えないので、もっと稼ぐようになるだろう」


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2015トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 6

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中