最新記事

東アジア

日韓よ中国を利する歴史論争から脱け出せ

ナショナリズムをあおるような対立をこのまま続ければ、中国に付け込まれて地域が不安定になるだけだ

2015年1月28日(水)17時11分
ブラマ・チェラニ(インド・政策研究センター戦略問題専門家)

和解を阻む壁 日韓は歴史問題を克服できるか Jason Reed-Reuters

 これまで長いこと、東アジア諸国の外交関係は歴史の「奴隷」になってきた。最近では歴史問題がさらに過熱している。中国と日本、韓国ではナショナリズムが高まるなか、領土や資源、教科書問題などあらゆる分野で論争が起こっている。東アジアは目下の対立を乗り越え、共通の未来を構築できるのか。

 この地域でアメリカの最も重要な同盟国である日本と韓国の関係を考えてみよう。日韓関係は以前からぎくしゃくしているが、日本の安倍晋三首相と韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領はナショナリズムをあおるような言動を一層強め、緊張を高めてきた。日韓が手を打たなければ、両国関係は冷え込んだまま推移し、そこに中国が付け込みかねない。

 中国は歴史というカードを巧みに使っている。習近平(シー・チンピン)国家主席もナショナリズムを利用して権力基盤を固めている。中国政府は昨年、9月3日を「抗日戦争勝利記念日」、12月13日を「南京大虐殺犠牲者国家追悼日」に定めた。ベトナムやインドが中国による侵攻を忘れないために記念日を制定したら、一体どうなることだろう。

 歴史をめぐる論争は分裂と不安を生み、領土問題に火を付けた。歴史の政治問題化は、東アジア諸国の和解を阻む大きな要因だ。歴史を自国寄りに書き換えようとする試みが繰り返されるため、東アジア圏全体の協調はほぼ不可能になっている。

 この状況は変えられるはずだ。例えば日本と韓国は、共に民主主義国であり輸出大国だ。文化的な結び付きも強く、共有する価値観も多い。手を組むには理想的な2国だ。

 オバマ米大統領も日韓の戦略的協力関係を促進し、アメリカを含む3カ国による強固な安全保障同盟を築いて中国に対抗したい考えだ。だが日本と韓国は、過去から抜け出そうとしない。

 日本が歴史の一部を認めようとしないという韓国の主張には一理ある。しかし安倍が「歴史認識」に触れなければ首脳会談に応じないと言う朴も、歴史を利用して国民に迎合している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送-都合の合ったタイミングで進めたい=4回目の日

ワールド

中国とインドネシアは「真の多国間主義」を推進=中国

ワールド

韓国大統領選、野党候補の李氏が米関税協議延長の可能

ビジネス

まだ詳細に語る段階にない=日鉄のUSスチール買収で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:関税の歴史学
特集:関税の歴史学
2025年5月27日号(5/20発売)

アメリカ史が語る「関税と恐慌」の連鎖反応。歴史の教訓にトランプと世界が学ぶとき

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非礼すぎる」行為の映像...「誰だって怒る」と批判の声
  • 2
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友情」のかたちとは?
  • 3
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンランドがトランプに浴びせた「冷や水」
  • 4
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 5
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 6
    【クイズ】PCやスマホに不可欠...「リチウム」の埋蔵…
  • 7
    備蓄米を放出しても「コメの値段は下がらない」 国内…
  • 8
    空と海から「挟み撃ち」の瞬間...ウクライナが黒海の…
  • 9
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワ…
  • 10
    トランプは日本を簡単な交渉相手だと思っているが...…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドローン母船」の残念な欠点
  • 3
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界の生産量の70%以上を占める国はどこ?
  • 4
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
  • 5
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到し…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「太陽光発電」を導入している国…
  • 7
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 8
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 9
    「空腹」こそが「未来の医療」になる時代へ...「ファ…
  • 10
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
  • 5
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 6
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中