最新記事

中東

穏健サウジの「ぶった切り広場」

残忍な処刑はテロ組織だけじゃない。米国の同盟国で実行されている斬首刑の実態

2014年12月25日(木)16時05分
ジャニーン・ディジョバンニ

唯一の娯楽? 公開むち打ち刑の準備をするサウジ警察と野次馬 Zaki Ghawass-Reuters

 あなたがYouTubeの熱心なユーザーなら、イスラム教スンニ派テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)の戦闘員がアメリカ人ジャーナリストやイギリス人ボランティアの首をはねる動画を見たことがあるはずだ。あの目を覆いたくなるけれど繰り返し見たくもなる映像のせいで、世界中で彼らへの反感が高まり、彼らに対する欧米諸国の軍事的対応もエスカレートしたのだった。

 どう見ても許し難い野蛮な行為である。しかし、実を言うとこうした野蛮な処刑が日常的に行われている国がある。例えばアメリカにとってアラブ圏で最大の同盟国であるサウジアラビアだ。今年だけで既に59人の首をはねている。

 サウジアラビアの法制はイスラム法典「シャリーア」に基づく。シャリーアを採用しつつ、別に近代的な刑法規定を持つ国もあるが、サウジアラビアはそうではない(ただし改革を求める声は国内にもある)。

 あなたがサウジアラビアで斬首による死刑を宣告された場合、どのようにして最後の日を迎えることになるだろう?

 この世で最後の朝は、たいてい独りぼっちだ。朝早くに起床し、最後の朝食を取る。運がよければ、しかるべき鎮静剤をもらえるかもしれない。

 処刑は通常、砂漠を猛烈な暑さが支配する前の午前中に、公共の広場で行われる。世界で今も「公開処刑」を行っているのはサウジアラビアとイラン、北朝鮮、ソマリアだけだ。

 あなたが死ぬのを見るために大勢の人が集まってくる。イギリスの作家ジョン・R・ブラッドリーによれば、公開処刑はサウジアラビアで、サッカーを除けば「唯一の大衆的娯楽」だ。

 あなたが首都リヤドの刑務所にいれば、たぶん「ぶった切り広場」という恐ろしい別名を持つディーラ広場に連れて行かれることになる。

 あなたの到着前に、警察と治安部隊が準備を整えておく。好奇心で集まる見物人を下がらせるために非常線を張る場合もあるが、それでも多くの見物人が遠巻きにしているはずだ。

 到着すると、あなたは広場の中央に連れて行かれる。公認の処刑人であるモハメド・サード・アルベシが03年に地元紙のインタビューで語ったところによれば、この時点でたいていの受刑者は気力を失い、極度の脱力感で抵抗もできなくなる。

「刑場に着くと死刑囚の体からは力が抜ける」と語るアルベシは、1日に7人の処刑を行った経験がある。自分は「神に代わって」剣を振り下ろすだけであり、特に陰惨な仕事だとは思っていないそうだ。

 刑の執行前に被害者の家族の元を訪れ、加害者を許す気はあるかと尋ねることもある。彼らが加害者を許せば、死刑は中止になる場合もあるからだ。「受刑者が死なずに済むよう神に祈り、最後の最後まで希望を捨てない」と彼は言う。

 アルベシは88年から処刑人の仕事をしている(一般に、この仕事は代々受け継がれる場合が多いが、彼は違うという)。サウジアラビアでは、処刑人の仕事は首を切ることだけではない。犯罪の種類によって、手首を切り落とすこともあれば、脚を切断することもある。

 さて、あなたは広場の中央に連れて行かれ、ひざまずくよう命じられる。首をはねたときに飛び散る血を受け止めるために、周囲にはビニールが敷かれる。ちなみに、手首を切り落とす際には関節を狙うとアルベシは言う。「脚の場合はどこから切り落とすかが決められており、その指示に従って切る」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

欧州首脳、米ウクライナ首脳会談に同席へ ゼレンスキ

ワールド

米南部と中西部の共和党系3州がワシントンに州兵派遣

ワールド

米、月内の対インド通商交渉をキャンセル=関係筋

ワールド

イスラエル軍、ガザ南部への住民移動を準備中 避難設
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に入る国はどこ?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 5
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 6
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 9
    40代は資格より自分のスキルを「リストラ」せよ――年…
  • 10
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中