最新記事

サイエンス

睡眠不足が認知症を招く原因に?

2013年11月25日(月)13時44分
クリス・ウェラー、イライジャ・ウルフソン

寝ている間に脳の「ゴミ出し」

「脳が使えるエネルギーには限りがある。だから覚醒して意識のある状態と、眠っていて掃除している状態との間で切り替えを行わなければならないのだろう」と、ロチェスター大学の研究チームを率いたマイケン・ネーデルガードは声明で述べた。「ホームパーティーを思い浮かべてみるといい。私たちはお客をもてなすことも、家を掃除することもできるが、両方同時にするのは不可能だ」

 リンパ系を介して組織液や脂肪酸を運ぶ体の他の部分と異なり、脳には栄養や老廃物を運ぶための独自の循環系がある。専門家はこれを「グリンパティック系」と名付けた。

 グリンパティック系で大きな役割を果たすのが脳のグリア細胞だ。今回明らかになったのは、睡眠時にはグリア細胞の大きさが縮むためにスペースが空き、脳脊髄液が流れやすくなるということ。「ゴミ収集車」を通すために道を空けている状態が起きるのだ。

 つまり脳の「ゴミ出し」こそが睡眠の基本的役割らしいということだ。

 では睡眠不足が認知力の低下などを招いたりする可能性はあるのだろうか? チェイスラーの答えは「イエス」だ。

「神経細胞がエネルギーを燃焼させたときに生じる副産物は神経細胞にとって有毒であり、除去しなければならない。この除去プロセスは睡眠中のほうが覚醒時より20%も効率がいいという」と、チェイスラーは言う。「アルツハイマー病の患者に睡眠障害のある人が多いことは知られているが、この論文は初めて、睡眠障害がアルツハイマーの原因の1つである可能性を示したといえる」

 今回の発見は脳科学における革命の始まりにほかならないというのが、多くの専門家の一致した意見だ。今後、ラット以外の動物を使った研究で「種の違いを超えてこれが真実であることが明らかになれば、睡眠の基本的な機能が解明されたことになるだろう」と、チェイスラーは言う。画期的だと言われるゆえんだ。

[2013年11月12日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、和平に向けた譲歩否定 「ボールは欧州と

ビジネス

FRB、追加利下げ「緊急性なし」 これまでの緩和で

ワールド

ガザ飢きんは解消も、支援停止なら来春に再び危機=国

ワールド

ロシア中銀が0.5%利下げ、政策金利16% プーチ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 8
    【独占画像】撃墜リスクを引き受ける次世代ドローン…
  • 9
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 10
    中国、ネット上の「敗北主義」を排除へ ――全国キャン…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中