最新記事

交通

春節もヤバい?北京を襲う渋滞パニック

大型連休の高速道路は狂乱状態。当局は自動車の増加を抑えるためナンバープレートの交付をくじ引きにしたが

2013年1月28日(月)14時18分
スティーブ・フィンチ

車の海 世界の主要な20の経済都市を対象に行われた通勤事情調査で、北京は世界最悪の「通勤地獄」と評された David Gray-Reuters

 中国では秋に、10月1日の国慶節(建国記念日)を含む連休「黄金週」がある。2012年は9月30日から10月7日まで8日間の大型連休となった。

 中国人民が待ちかねた楽しい行楽シーズンになるはずだったが、現実には休暇を楽しむどころではなかった。北京などの大都市で史上最悪の道路渋滞が起きたからだ。史上空前のスピードで自動車が増えている中国の深刻な問題が浮き彫りになった格好だ。

 中国国内では、大渋滞が起きたのは連休中の高速道路料金が無料化されたためだという批判が噴出。市民の交通費負担の軽減と、料金所の通過時間の短縮を図るための措置だったと、当局は説明している。

 その結果、北京周辺は地方からの行楽客を乗せた大量の車の列で万里の長城が築かれたような状態に陥った。北京市交通委員会の推定では、連休中に北京市内を通行する車は1日155万台。昨年同時期の2倍以上だ。

 中国メディアによると、渋滞に業を煮やして道路脇でテニスを始めた人もいたという。ようやく名所に到着しても、今度は歩行者の行列が延々と続いた。「人の頭以外、何も見えなかった」と、河南省から家族で故宮博物館を訪れた観光客の1人は政府系の英字紙チャイナ・デイリーに語った。

自動車メーカーは規制の緩い地方に活路

 メディアやネット上では、連休中の高速道路無料化の是非をめぐり議論が巻き起こっているが、この問題の根はもっと深いところにある。

 IBMは10年、世界を代表する20の経済都市を対象に初の通勤事情調査を行ったが、北京は世界最悪の「通勤地獄」という評価を受けた。11年の調査でも、深センと並んでワースト2位(最悪はメキシコシティ)。中国にとって、車の交通量管理は深刻な課題だ。

 2012年2月の時点で北京市の車の登録台数は500万台。政府の担当者によれば、16年には600万台に増える見込みだ。

 政府は人々の新車購買熱を抑え込むため、新規登録車に交付するナンバープレートにくじ引き制を導入。特に交通状態が深刻ないくつかの都市で、新規登録の割当台数を月2万台に制限する措置に乗り出した。
2011年初めに北京でこの制度が導入されてから、市内を走る新車の台数は半分以下に減ったが、同時に新たな問題も浮上した。

 ナンバープレート取得の申請件数は、割当数を大幅に超えている。そのため北京市民は、いつか自家用車を持ちたいという夢が実現不可能になったと感じている。一方、多くの小規模ディーラーが倒産し、この1年半で約半数になったという推定もある。中古車を個人的に転売することもほぼ不可能になった。

 ゼネラル・モーターズ(GM)のような外資の大手自動車メーカーや、吉利汽車などの国内メーカーは、ナンバープレート割当制が導入されていない地方の中小都市で販売攻勢をかけ、一定の成果を挙げている。この動きには減速する景気の押し上げ効果があるが、交通渋滞の問題を全国に広める事態も招いている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米CPI、4月は前年比3.4%上昇に鈍化 利下げ期

ビジネス

米小売売上高4月は前月比横ばい、ガソリン高騰で他支

ワールド

スロバキア首相銃撃され「生命の危機」、犯人拘束 動

ビジネス

米金利、現行水準に「もう少し長く」維持する必要=ミ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中