最新記事

中東

イスラエルのガザ攻撃に潜む皮算用

総選挙を控えたネタニヤフ首相はハマスに強硬姿勢を示すことで右派勢力の支持を固めたいという思惑も

2012年11月19日(月)12時37分
ダン・エフロン(エルサレム支局長)

強硬姿勢 イスラエル軍はパレスチナ自治区ガザの大規模空爆を展開(11月16日) Ronen Zvulun-Reuters

 イスラエルの選挙といえば、結果を予想しづらいのが常だった。パレスチナへの土地譲渡を望む勢力とイスラエル領土の拡大を求める勢力の力が拮抗し、どちらかが僅差で過半数を握るか、駆け引きと妥協で連立政権が生まれることが多かった。

 だが近年、この傾向に変化が見られる。ネタニヤフ首相は10月、総選挙の前倒しを発表したが、この選挙では彼が率いる右派勢力が圧勝する見込みだ。

 世論調査によると、ネタニヤフの支持率はライバルの2倍以上に当たる50%以上。右派連立政権を構成する政党の支持率も上昇している。

 ネタニヤフは右派の支持を伸ばす上で大きな役割を果たしてきた。09年3月の首相就任以来、テロの発生率は下がり、多くの国が不況を脱するのに苦しむなかで経済も安定。テロも経済もイスラエルの有権者にとっては極めて重要な問題だ。

反イスラエル運動が高まるリスク

 だが右派の勢力拡大の背景には、より長期的な流れもある。右派を支持する正統派と超正統派のユダヤ教徒がイスラエルで増えているのだ。現在、この両派は人口の約25%を占めているが、今後20年以内に40%に増えるという予測もある。

 彼らがタカ派を好む政治姿勢を変えることはまずないだろう。宗教的信条から、ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区に当たる地域の統治権はイスラエルにあると考えているためだ。

 強固な支持層を握っていれば政権基盤は盤石に見えるものだが、紛争など突発的な出来事で政界勢力図が一変することもある。

 長期にわたって政界を支配してきた左派勢力の権威が失墜したきっかけは、73年の第4次中東戦争だった。彼らが盛り返したのは約15年後。パレスチナ住民が大規模な反イスラエル闘争を起こした後だ。

 西岸地区でのパレスチナ人の不穏な動きや、パレスチナとの和平プロセスの行き詰まりを考えると、新たな反イスラエル運動が起きる可能性もある。

 そうなると、いずれ選挙の結果予想はまた難しくなるかもしれない。ネタニヤフもそれは承知しているだろう。96年の首相公選で彼がごく僅差で辛勝したのは、パレスチナ過激派のテロが激化していた時期だった。

[2012年10月24日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、米GDPは3年ぶりのマイナ

ビジネス

FRB年内利下げ幅予想は1%、5月据え置きは変わら

ワールド

EU、米国の対ロシア政策転換に備え「プランB」を準

ワールド

サウジ、原油生産の政策転換示唆 「原油安の長期化に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 2
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・ロマエとは「別の役割」が...専門家が驚きの発見
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中