最新記事

外交

中国ナルシスト愛国心の暴走

2012年9月26日(水)15時46分
ロバート・サッター(ジョージ・ワシントン大学国際関係学部教授)

中国の外交は常に正しい?

 このイメージづくりを担ってきたのは中国外務省や、対外問題を取り扱う政府機関と共産党機関、政府や党や軍と関係の深いNGO(非政府組織)、そして政府の巨大なプロパガンダ機構だ。彼らは民衆が政府の外交を高く評価するように仕向けながら、中国の国際的地位向上に努めている。

 このため民衆は、中国は国際問題に関して、原則にのっとり道義的な立場を取っていると信じ切っている。さらに驚くべきことに、こうした戦略を取ってきたからこそ、中国は外交政策で誤りを認めたり、国際問題への対応で謝罪するような事態に陥らずに済んできたと思い込んでいる。

 一部の外交当局者や専門家は間違いなく、状況をもっときちんと把握している。彼らは「中国の外交は正しい」というイメージに違和感を覚えているかもしれないが、それを公言することはない。政府の外交政策について民衆やエリート層が受け入れる批判は、政府が弱腰過ぎるというものだけだ。

 こうした「正しい国」のイメージが浸透したおかげで、民衆は、中国がアジアや世界で指導的な役割を果たすことも強く支持している。そして政府が最近力を入れている課題でも、良心的な政策が取られるものと楽観している。

 政府が力を入れている課題とは、外国で平和と開発を推進することや、近隣諸国等で中国の影響力を高めつつ支配的あるいは覇権的な態度を取らないこと、領土拡大政策を取らないという王朝時代の伝統を守ることなどだ。

 こうした認識と現実の間には大きなギャップがある。確かに被害者意識に関して言えば、中国は19〜20世紀にかけて、列強から抑圧的な扱いを受けた。

 だが中華人民共和国の過去60年間の歴史を見れば、道義的で原則に基づく善良な外交が行われたのは例外にすぎないことが分かる。その政策はむしろ一貫性を欠き、暴力的なことが多かった。

 特にその傾向が強かったのは、アジアの近隣諸国に対してだ。これらの国の多くは、中国の侵攻や干渉を受けた経験がある。中国政府はクメール・ルージュ(カンボジア共産党)など、近隣諸国の反政府勢力や武力組織を支援して現地政府の弱体化を図った。

 冷戦終結後も、近隣諸国は中国による暴力と威嚇外交を忘れていない。中国政府は懐柔策を試みたが大きな成果はなかった。最近の南シナ海と東シナ海における中国の好戦的な姿勢は、近隣諸国に昔の中国を思い起こさせている。

 問題の一部は、中国のエリート層も民衆も、自国の暴力と過干渉の歴史をほとんど知らないことにある。だから彼らは、近隣諸国と遠くの大国(つまりアメリカ)がなぜ中国に対して疑念や懸念を抱くのか理解できない。

 アメリカに関して言えば、中国の外交にはもうひとつ一貫した特徴がある。それは域外の大国が中国周辺に強力な影響圏をつくり維持しようとすると、猛烈に反発することだ。

 アメリカだけでなく過去にはソ連、それに最近では日本やインドがこうした動きを見せると、中国当局(と体制派のエリート層と民衆)は、冷戦時代の「封じ込め」政策の復活であり中国に脅威を与えるものだなどとして、過剰なほどの反発を見せてきた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中