最新記事

メディア

アルジャジーラ美人記者を追放、中国の論理

重慶スキャンダルや軟禁下にあった人権活動家の脱出など体制を揺るがすスキャンダル続きの中国。逆ギレしたのか、それとも計算ずくの行動か

2012年5月9日(水)18時56分
アリソン・ジャクソン

理不尽 理由さえわからず追放されたチャン記者の写真(アルジャジーラ北京支局で) Jason Lee-Reuters

 中東の衛星テレビ局アルジャジーラは、英語部門の中国支局が閉鎖に追い込まれたと発表した。中国政府が同局の記者メリッサ・チャンのビザと記者証の更新を拒否したためだ。

 チャンは07年から中国に駐在し、経済から政治、外交、人権問題まで幅広く取材を行ってきた。アメリカ国籍の彼女は5月7日の夜、北京からロサンゼルスに向けて出国した。

 中国が正式な記者証を持つ外国人記者を国外に追放するのは、14年ぶりのこと。アルジャジーラは、中国政府の決定には失望しているとの声明を出した。

 中国国内の新聞や放送局は、当局の厳しい管理下に置かれている。そうした国で起きた今回の出来事は、駐在外国人記者たちの強い反発を招いている。

 中国外国特派員協会(FCCC)はツイッターに投稿した声明の中で、チャン追放という中国政府の決定には「愕然として」おり、中国で誰が記者として働くかを決める権利は中国政府ではなく、報道機関にあるとした。

 FCCCによれば、アルジャジーラが昨年、中国国内の強制労働収容所の実態を描いたドキュメンタリー番組を放送したことに中国政府は不満を持っていた。ただし、チャンはこの番組の制作には一切関与していない。中国側はさらに、アルジャジーラ英語部門の報道内容全般にも不満を示し、チャンが規則や規制に「違反した」と非難したが、具体的な違反の内容には言及しなかったという。

別の記者のビザ発行も拒否

 問題の収容所は反政府活動家などを罰する目的で使われることが多く、アルジャジーラはこうした中国政府による「再教育」の現場を英語放送のドキュメンタリーにまとめていた。この番組には無関係とされるチャンも、中国社会の闇を明らかにする話題を取材することが多かった。

 アルジャジーラは中国支局の規模拡大のために別の記者たちへのビザ発行も申請したが、これも拒否されたという。

 中国では最近、薄煕来(ボー・シーライ)前重慶市党委員会書記の不祥事による失脚や、自宅軟禁されていた盲目の人権活動家・弁護士、陳光誠(チェン・コアンチョン)の脱出劇など大きな事件が相次いだ。これについて報道が世界中で過熱していることを、中国政府や国営メディアは批判していた。

 中国政府が人権侵害を行っていると受け取られるような微妙な問題について中国在住の外国人ジャーナリストが報道して、国外追放になると脅されたり、ビザ発行を大幅に遅らされたりすることはしょっちゅうだったが、14年ぶりの国外追放は、党の世代交代へ向けて本気で邪魔者を排除するコワモテ戦術の始まりかもしれない。

From GlobalPost.com

ニュース速報

ワールド

ウクライナ、反転攻勢の準備整った―ゼレンスキー氏=

ワールド

米国防長官、講演で中国に懸念 衝突回避へ対話を呼び

ワールド

北朝鮮ミサイル情報の即時共有、数カ月中に初期運用へ

ワールド

インド東部で列車同士が衝突、少なくとも233人死亡

MAGAZINE

特集:ChatGPTの正体

2023年6月 6日号(5/30発売)

便利なChatGPTが人間を支配する日。生成AIとどう付き合うべきか?

メールマガジンのご登録はこちらから。

人気ランキング

  • 1

    ロシアの「竜の歯」、ウクライナ「反転攻勢」を阻止できず...チャレンジャー2戦車があっさり突破する映像を公開

  • 2

    「ダライ・ラマは小児性愛者」 中国が流した「偽情報」に簡単に騙された欧米...自分こそ正義と信じる人の残念さ

  • 3

    米軍、日本企業にTNT火薬の調達を打診 ウクライナ向け砲弾製造用途で

  • 4

    ウクライナ側からの越境攻撃を撃退「装甲車4台破壊、戦…

  • 5

    どんぶりを余裕で覆う14本足の巨大甲殻類、台北のラ…

  • 6

    茶色いシミに黄ばみ... カンヌ登場のジョニー・デッ…

  • 7

    「両親は無責任だ」極太ニシキヘビが幼児に絡みつく.…

  • 8

    「日本ネット企業の雄」だった楽天は、なぜここまで…

  • 9

    【ヨルダン王室】ラーニア王妃「自慢の娘」がついに…

  • 10

    大事な部分を「羽根」で隠しただけ...米若手女優、ほ…

  • 1

    【画像・閲覧注意】ワニ40匹に襲われた男、噛みちぎられて死亡...血まみれの現場

  • 2

    歩きやすさ重視? カンヌ映画祭出席の米人気女優、豪華ドレスからチラ見えした「場違い」な足元が話題に

  • 3

    韓国アシアナ機、飛行中に突然乗客がドアをこじ開けた!

  • 4

    【ヨルダン王室】ラーニア王妃「自慢の娘」がついに…

  • 5

    「日本ネット企業の雄」だった楽天は、なぜここまで…

  • 6

    ワニ40匹に襲われた男、噛みちぎられて死亡...血まみ…

  • 7

    ロシアの「竜の歯」、ウクライナ「反転攻勢」を阻止…

  • 8

    62歳の医師が「ラーメンのスープを最後まで飲み干す」…

  • 9

    ロシアはウクライナを武装解除するつもりで先進兵器…

  • 10

    F-16は、スペックで優るロシアのスホーイSu-35戦闘機…

  • 1

    【画像・閲覧注意】ワニ40匹に襲われた男、噛みちぎられて死亡...血まみれの現場

  • 2

    世界がくぎづけとなった、アン王女の麗人ぶり

  • 3

    カミラ妃の王冠から特大ダイヤが外されたことに、「触れてほしくない」理由とは?

  • 4

    F-16がロシアをビビらせる2つの理由──元英空軍司令官

  • 5

    「ぼったくり」「家族を連れていけない」わずか1年半…

  • 6

    築130年の住宅に引っ越したTikToker夫婦、3つの「隠…

  • 7

    日本発の「外来種」に世界が頭を抱えている

  • 8

    歩きやすさ重視? カンヌ映画祭出席の米人気女優、…

  • 9

    チャールズ国王戴冠式「招待客リスト」に掲載された…

  • 10

    「飼い主が許せない」「撮影せずに助けるべき...」巨…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中