最新記事

アジア

貿易を軽視するオバマに用はない

米政権がアジア太平洋地域の通商政策に力を入れなければ、「アメリカはずし」が加速する可能性がある

2009年11月13日(金)17時19分
ダニエル・ドレズナー(米タフツ大学フレッチャー法律外交大学院教授)

貿易は外交 環太平洋地域で経済政策を軽視すれば、アメリカは影響力を失いかねない(中国・天津港、09年3月) Vincent Du-Reuters

 ナショナル・インタレスト誌に私が寄稿した最新のコラムは、アジア太平洋地域と、その地域の国々の最大の関心事である貿易をめぐる政策で、行き詰まりを見せているオバマ政権への警告だ。


 オバマのおぼつかない貿易政策は、域内経済の一体化を進めようと躍起になっているアジア太平洋地域では支持を得られないだろう。アメリカの貿易自由化路線は行き詰まり、ロン・カーク米通商代表が辞職を検討しているという噂がワシントンの官僚の間で流れるほど深刻な状況に陥っている。

 一方、アジア太平洋地域の国々は記録的なペースで自由貿易協定(FTA)の締結を進めている。欧州連合(EU)はすでに韓国とFTAの仮署名を交わし、日本とも合意に向けた協議を行っている。反対に、韓国とアメリカの自由貿易協定が米議会を通過する見込みはゼロに近い。

 もっとも、アメリカが輝きを失ったわけではない。環太平洋地域での一連の動きは、アメリカに対抗するためというより防御策的な側面が強い。それでも、オバマが同地域で真剣に受け止められたいなら、彼らが抱える問題に真剣に向き合わなければならない。貿易は単なる経済活動ではなく、外交問題でもある。米政府が軽視する問題だからといって、他の国々にとっても重要でないとは限らない。すでに明らかになりつつあるように、地域によってはいざとなれば完全にアメリカ抜きでやっていくこともできる。


 憂慮すべきこの時期に、元米国務省高官のエバン・フェイゲンバウムがフィナンシャル・タイムズ紙に似たような内容の記事を寄稿したのも理解できる。


 アジアの関心事はビジネスだ。変化を続けるこの地域でアメリカの地位を保つには、外交努力だけでなく、貿易にももっと積極的に関わらなければならない。さもないと、じきにアメリカが商業的、金融的な利害を追及することに非協力的な姿勢を見せはじめるかもしれない。


 私とエバンは大学院で共に学んだクラスメートだが、最近までアジア太平洋地域について話したことはなかった。在学当時、私たちの見方は大抵食い違った。意見が一致するのは、何か深刻な問題が間違った方向へ進んでいる時だけだった。今回の意見の一致も、きっと同じことだろう。

[米国東部時間2009年11月12日(金)09時09分更新]


Reprinted with permission from Daniel W. Drezner's blog, 11/12/2009. ©2009 by Washingtonpost. Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英サービスPMI4月改定値、約1年ぶり高水準 成長

ワールド

ノルウェー中銀、金利据え置き 引き締め長期化の可能

ワールド

トルコCPI、4月は前年比+69.8% 22年以来

ビジネス

ドル/円、一時152.75円 週初から3%超の円高
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中