最新記事

個人情報

米政府の監視よりフェイスブックのほうが怖い?

ネット上のプライバシーは既に筒抜けだから、今さら米政府の監視が加わっても同じことだという大きな勘違い

2013年6月12日(水)16時35分
ウィル・オリマス(スレート誌記者)

身近な「脅威」 フェイスブックで浮気の証拠や写真がばれる心配のほうが現実的なのは確かだが Dado Ruvic-Reuters

 米政府によるネットと携帯電話への大規模な監視活動が判明したばかりだが、アメリカ国民はあまり憤りを見せていない。その大きな理由は、ネット上の情報のやりとりは既にグーグルやフェイスブックに監視されているのに何を今さら、と諦めているからだ。

 10日に公表されたワシントン・ポスト紙と調査会社ピュー・リサーチセンターの調査では、56%のアメリカ人が、米国家安全保障局(NSA)の監視は「許容できる」と答えている。また、昨年AP通信と米テレビ局CNBCが合同で行った調査によれば、フェイスブックが投稿された情報を第三者に渡さないと信じる人はわずか13%で、少しだけ信じる人は28%。つまり大多数は、同社が個人情報を守るとはまったく信じていないか、ほとんど信じていなかった。

 矛盾した結果のようだが、一般的なアメリカ人は、フェイスブックによる個人情報の支配よりも、政府によるスパイ活動のほうがましだと考えている。

 自己中心的に考えるなら、こうした考え方は理解できる。ほとんどのアメリカ人は、自分がテロ調査の対象になるとは思わないので、政府が自分の情報などに関心を示すはずがないと考えている。

 一方でフェイスブックは、すべてが利用者の個人情報によって成り立っている。実際には、個人情報を利用するといってもターゲット広告に使うぐらいだし、テロ容疑で起訴する意図などさらさらない。それでも多くの人にとって、浮気の証拠やきわどい写真、秘密のやり取りが意図せずにばれてしまう恐怖のほうが恐ろしいし現実的だ。

政府のネット監視からは「脱会」できない

 ある意味では、長年続いてきたフェイスブックなどのネット企業によるプライバシー侵害騒動が、アメリカ人がNSAによるネット監視を許容する地ならしをする結果になったのではないか。プライバシーなんてとうに過去のものなのに、米政府がグーグルやマイクロソフトが同じことをしたからといって何が悪いのか、というわけだ

 だが、この考え方は甘い。1つには、NSAの監視対象からは脱会ができない。アメリカを去れば怪しまれて監視はさらに強化される。一方、フェイスブックはプライバシー侵害の批判を受けるなかで徐々にプライバシー設定を充実させてきている。利用者は自分のデータを共有する範囲をかなり細かく設定できる。

 NSAはそんなことは決してさせないし、その監視を逃れようとすればするほどますます疑われる。この問題を無関心にやり過ごせば、いつかしっぺ返しを食うかもしれない。

© 2013, Slate

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米国境警備隊、シャーロットの移民摘発 初日に81人

ワールド

エプスタイン文書「隠すものない」と米下院議長、公開

ワールド

北朝鮮軍、西部クルスクで地雷除去支援 ロシア国防省

ビジネス

米バークシャー、アルファベット株43億ドル取得 ア
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中