最新記事
考古学

鉄器時代の古代イギリスは女性が土地を支配していた?

2025年4月26日(土)11時27分
シャミム・チョウドリー
鉄器時代の古代イギリスは女性が土地を支配していた?

イングランド南西部にある古代の墓地を調査する研究者ら(2025年1月) COURTESY OF MILES RUSSELLーBOURNEMOUTH UNIVERSITY

<DNAの分析により、ローマ時代以前のイギリスでは母系を軸とした強固な家族共同体が存在していたことが明らかに>

新しい遺伝的証拠によれば、ローマ時代以前のイギリスでは女系の家族が社会構造の中心だったようだ。

イングランド南西部ドーセット州にある鉄器時代後期の墓地から採取したDNAを分析した結果、この共同体の女性は互いに近縁関係にあり、男性は結婚を通じて共同体に加わった新参者である可能性が高いことが分かった。


科学誌ネイチャーに掲載されたこの研究は、紀元前100~紀元200年の57の墓を調査したもので、被葬者の3分の2は単一の母方の祖先と血縁関係があった。

この発見はいわゆる「妻方居住制」を示唆するものだ。この慣行の下では、女性は生涯を通じて母方の共同体にとどまり、強固な家族の絆を維持した。財産や土地の管理権を持っていた可能性もある。対照的に男性は共同体の新参者である場合が多く、妻の家族に生計を頼っていた。

専門家によれば、このパターンは歴史的に見て珍しい。ほとんどの古代社会では、女性は結婚後、夫の家族に加わるのが一般的だった。

当時のブリテン諸島は、似たような言語、芸術、文化習慣を共有するケルト系の諸部族が支配していた。この研究は、ケルト社会が政治権力を女性が握る完全な母権社会だったということを示すものではないが、論文の共同執筆者である英ボーンマス大学の考古学者マイルズ・ラッセルはこう語る。

「これまで考えられていた以上に女性が土地や財産を支配していたことを示唆する証拠が見つかった。家父長制のローマ世界に比べ、ケルト時代のイギリスはより平等主義的だったように見える」

Reference

Cassidy, L.M., Russell, M., Smith, M. et al. Continental influx and pervasive matrilocality in Iron Age Britain. Nature (2025).

試写会
『おばあちゃんと僕の約束』トークイベント付き特別試写会 5組10名様ご招待
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏、新たな関税戦争 EUとアップルに矛先

ビジネス

トランプ氏、アップルに圧力 海外製なら「25%の関

ビジネス

トランプ氏「EUに6月1日から関税50%」と投稿、

ワールド

韓国国防省、米軍撤退巡り協議していないと表明 WS
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:関税の歴史学
特集:関税の歴史学
2025年5月27日号(5/20発売)

アメリカ史が語る「関税と恐慌」の連鎖反応。歴史の教訓にトランプと世界が学ぶとき

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドローン母船」の残念な欠点
  • 2
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界の生産量の70%以上を占める国はどこ?
  • 3
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 4
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到し…
  • 5
    子育て世帯の年収平均値は、地域によってここまで違う
  • 6
    「空腹」こそが「未来の医療」になる時代へ...「ファ…
  • 7
    米国債デフォルトに怯えるトランプ......日本は交渉…
  • 8
    空と海から「挟み撃ち」の瞬間...ウクライナが黒海の…
  • 9
    人間に近い汎用人工知能(AGI)で中国は米国を既に抜…
  • 10
    【クイズ】世界で2番目に「自動車の生産台数」が多い…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドローン母船」の残念な欠点
  • 4
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 5
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」…
  • 6
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到し…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「太陽光発電」を導入している国…
  • 8
    「空腹」こそが「未来の医療」になる時代へ...「ファ…
  • 9
    中ロが触手を伸ばす米領アリューシャン列島で「次の…
  • 10
    人間に近い汎用人工知能(AGI)で中国は米国を既に抜…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
  • 5
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 8
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中