最新記事

法からのぞく日本社会

もしも作曲家がAIをゴーストライターに使ったら、著作権はどうなる?

2017年12月26日(火)12時06分
長嶺超輝(ライター)

Menno van Dijk-iStock.

<人工知能(AI)を使って作曲したら、その音楽は誰のものになるのか。そしてAI作曲はどんなリスクとチャンスを生むのか>

ネットやTV、新聞などで「人工知能(AI)」という言葉がやたらと飛び交っている。将棋や囲碁の世界では、既に人間が勝てなくなっており、むしろAIが新たな定石を切り拓こうとしているそうだ。

また、「星新一風の自動執筆小説が、文学賞の一次審査を通過した」「ゴッホやレンブラントの作風を自動的に学習して、新たなゴッホ風やレンブラント風の『新作』を描いた」などといったニュースも続々と入ってきている。人間にしかできない固有の営みだと考えられていた創作活動でも、AIが淡々とこなし、いずれ人間を凌駕しかねない......との話題に事欠かない。

その一例に、「オルフェウス(Orpheus)」という自動作曲システムがある。AIを使った作曲システムで、人間が聴いて心地いい音楽の、楽譜と音源を、わずか45秒ほどでこしらえてしまう。

現時点では主旋律などの制作で人間のサポートが必要だが、近い将来、人間の手を借りずに、一瞬で何万曲もの音楽をAIが作ってしまうに違いない。

AIの作品に著作権は認められない?

では、ある作曲家が、AIが自動的に作った素晴らしい音楽を「自作宣言」して、しれっと販売した場合、法律的にはどうなるのだろうか。

著作権の問題はどうだろうか。この"クズ作曲家"は、いわばAIを「ゴーストライター」扱いしているのである。だが、著作権法2条1項1号は、著作物について「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と定義している。

著作権法の解説書などには、「人の思想や感情を......」との補足説明がなされていることも多いが、少なくとも著作権の条文では「人」だと限定されていない。

では、人ではないAIに「思想」や「感情」の存在を認めることができるだろうか? これはさすがに厳しそうだ。ロボットなどが感情などを持って会話しているように見えることもあるが、それはそう見えるように人間が設計したのである。

人間の脳も微弱な電気信号で動いているらしい。それなら電子回路と変わらないじゃないか......と、言われてしまえば身もフタもないのだが、思想や感情は、それぞれの人間にもともと備わっていて、それぞれの人間で微妙に異なる個性や本能にも基づくと考えられる。AIが芸術作品のビッグデータを解析して、別の二次的作品を出力するとき、果たしてそこに、そのAIに固有の「思想」や「感情」は存在するだろうか。

徹底的に突き詰めたなら、哲学的な問題になってしまいそうだが、法律の解釈はとりあえず一般常識で考える。現時点のAIは、自らの「思想」「感情」に基づいて作品を作っているわけではないと言っていい。

つまり、AIの作品に著作権は認められない。そして、存在しない著作権を侵害することもできない。よって、"クズ作曲家"の発表した音楽が、実はAIの作ったものだったと判明した場合、その音楽は「誰のものでもない」ということになる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

香港の大規模住宅火災、ほぼ鎮圧 依然多くの不明者

ビジネス

英財務相、増税巡る批判に反論 野党は福祉支出拡大を

ビジネス

中国の安踏体育と李寧、プーマ買収検討 合意困難か=

ビジネス

ユーロ圏10月銀行融資、企業向けは伸び横ばい 家計
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 8
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中