最新記事

インタビュー

医師500人が支えるオンライン病気事典「MEDLEY」の狙い

[豊田剛一郎]株式会社メドレー 代表取締役医師

2017年8月24日(木)17時23分
WORKSIGHT

Photo: WORKSIGHT

<このままでは日本の医療がだめになると危機感を抱き、医療現場を離れた豊田剛一郎氏。医療・介護業界の求人サイトを運営するメドレーに移った彼は、「医療×IT」で患者のリテラシーを高めたいと、オンライン病気事典を立ち上げた>

代表取締役医師という肩書きの通り、私は医師です。研修や米国の病院への留学を含めて4年あまり、医療現場で働く中でさまざまな課題に直面し、このままでは日本の医療がだめになるという危機感を強く抱きました。過重労働、診療プロセスの効率の悪さ、地域医療の崩壊、医療知識の格差が招く患者とのディスコミュニケーション、増大する医療費――。

危機感を感じていたのは私だけではありません。日本の医療従事者はみんな苦しんでいました。このままでいいのかと思いながらも、働き続けるには見て見ぬふりをするしかない。これは誰かが何とかしなければという強烈な使命感に突き動かされて、医療を変える一石を投じようと決めたんです。

とはいえ、医療業界は巨大で仕組みも複雑です。目の前の患者に精一杯で、現場から改革の波を起こすことは到底できない。そこで製薬企業などのコンサルティングに従事しながら、外部から医療を変えようとマッキンゼーに転職しました。しかし働くうちに、「医療を変える」となるとコンサルティングファームの限界も強く感じるようになりました。

そんな頃、小学校時代から付き合いがあった瀧口浩平(メドレー代表取締役社長)に声をかけられたんです。瀧口は祖父の病気の経験から医療に問題意識を抱いてこの会社を立ち上げ、「医療×IT」で納得のいく医療を実現すべく、医療・介護業界の求人サイト「JobMedley(ジョブメドレー)」をスタートさせていました。

患者側、医師側と立場こそ違いますが、このままでは日本の医療は立ち行かないという共通の使命感で瀧口と結束できた。そこで自分もメドレーに参画することを決めたんです。

「網羅性」「最新性」「中立性」を備えた病気事典

メドレーに入って私がまず着手したのが、オンライン病気事典「MEDLEY(メドレー)」の立ち上げでした。「JobMedley」は医療現場の人手不足を解消しようとするサービスですが、医師が病気の情報を網羅的に、かつ分かりやすくまとめることで患者のリテラシーを高めよう、患者に直接役立つ医療ど真ん中のサービスを作ろうと考えました。

医療の周辺の情報はインターネット上に大量にあふれているけれども、本格的な医療情報を扱うサービスは意外とないんですね。ウィキペディアに載っている医療情報の9割に不正確な記述があるという研究報告* もあります。

病気のことを知りたいと思っても、医学的に正確で、しかも一般の患者にもわかるように説明されている日本語のサイトが1つもないわけです。医師がコンテンツ制作に関わればいいのですが、健康や命に関わることなので中途半端にはできないし、そもそも多忙なのでそんな余裕がありません。それなら自分たちがやろうという、そういう流れでしたね。

最初は疾患を5つだけに絞って深い情報を提供するとか、患者コミュニティを作ろうといったアイデアも出たんです。でも、まずは情報を網羅することが大事だということで「事典」の方向性が決まりました。MEDLEYを見れば全ての病気や薬について情報が得られるし、医療機関のことも分かる。「網羅性」「最新性」「中立性」という3つの特徴を備えたコンテンツをまず作ってから、情報を深くしていこうという戦略です。

【参考記事】「癌は細胞の先祖返り」新説は癌治療の常識を変えるか

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=下落、予想下回るGDPが圧迫

ビジネス

再送-〔ロイターネクスト〕米第1四半期GDPは上方

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円以外で下落 第1四半期は低
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中