最新記事

トレンド

絵文字フィーバー日本から世界へ

2016年1月6日(水)16時40分
マット・アルト


アップルはかわいくない

 当時は文字を構成するドット数が限られていたため、絵文字はまるで原始的な単細胞生物のように見えた。それでも、ちっちゃな顔マークやハートマークは、若い女性の心をつかんだ。とても「かわいい」からだ。

 ボーイフレンドたちもこれに続き、やがて絵文字は大人気に。ところがドコモは絵文字を商標登録しなかった。「本部が法律顧問に相談したところ、12×12ドットのスペースでは誰でも似たような表現になるということで、断念した」と栗田は言う。これでドコモのライバル企業もこぞって絵文字を取り入れるようになり、普及に拍車が掛かった。

 おかげで、08年に日本に初登場したiPhoneの売り上げは期待されたほど伸びなかった。アップル社のマック製品は、アメリカで業績不振の時代にも日本ではよく売れていたのだが。つまり絵文字が使えなかったから、世界のiPhoneブームに日本人は乗らなかったのだ。

 そこでアップルのパートナー企業であるソフトバンクの孫正義社長は、「日本では絵文字のないメールはメールではない、とアップルを説得した」という。

 この言葉は効いたようだ。アップルはすぐさま日本向けiPhoneを、絵文字が使えるようにアップデート。しかもグーグルと協力して、絵文字を文字コード規格「ユニコード」に変換できるようにした。そうすれば絵文字使用が世界に拡大する可能性が出てくるからだ。

 しかしこれは皮肉にも、日本における絵文字人気の凋落を招くことになった。アップルとグーグルが欧米向けコンピューターと携帯電話で絵文字を使えるようにしたのは、絵文字の誕生から約10年後のこと。既にディスプレイ技術は、栗田が最初に手掛けたモノクロ画面から飛躍的に進んでいた。

 欧米のデザイナーたちは、思い思いのコンセプトで絵文字を制作し始めた。時には日本の絵文字開発者をゾッとさせることもあった。「大半の日本人はアップルの絵文字をかわいいとは思わない」と、栗田は言い切る。「絵文字の本来の姿から離れてしまっている」

 日本のユーザーも離れてしまった。日本で今、もてはやされているのはLINE。「スタンプ」と呼ばれるマスコットやマンガのキャラを自在に使えるメッセージアプリだ。絵文字も使われるが、遊び心に満ちたスタンプにお株を奪われている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国CATL、5月に香港市場に上場へ=関係筋

ワールド

米上院、トランプ関税阻止決議案を否決 共和党の造反

ワールド

訂正-原油先物小幅に上昇、サウジの増産観測で前日は

ビジネス

テスラ取締役会、マスク氏の後継CEO探し開始=WS
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 3
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中