最新記事
農業

100年で1.8mの表土が消失...フロリダの大地を救うのは「米作り」? 鳥たちも集まって一石三鳥

Rice Aiding the Everglades

2024年12月4日(水)15時11分
ジェハンギル・バダ(フロリダ大学准教授)
米フロリダ、エバーグレーズ農業地域での米作り

水田での米作りは土壌や周辺環境の保全につながっている JEHANGIR H. BHADHA

<米エバーグレーズ農業地域では毎年夏の米作が土壌の健康維持に一役。二毛作のサトウキビの収量も上がり、いいことづくめだ>

米フロリダ州南部、オキーチョビー湖(Lake Okeechobee)の南の約28万ヘクタールの広大な土地に広がるエバーグレーズ農業地域(Everglades Agricultural Area)では、毎年夏に米作りが行われる。作付面積は9300ヘクタール、1ヘクタール当たりの収量は4.5トンに上る。

土壌は有機質と栄養に富み、窒素やリン、カリウムの施肥を必要としないが、その一方で丁寧な管理は欠かせない。この地では過去100年ほどの間に、約1.8メートルもの厚さの表土が失われているのだ。


表土が失われるスピードを遅らせ、栄養豊富な土壌を維持する方法の1つが、雨の多い夏に水を張った田で米を作ることだ。周辺の運河から水を引き込んで稲を育て、地面が乾いてきたら収穫の時期だ。

The Everglades Foundation-YouTube


エバーグレーズ農業地域では1950年代にも稲作が行われていたが、作付面積は800ヘクタール程度にすぎなかった上、稲を枯らす白葉病(しらはびょう)という病気が発生。米作りは一時、途絶えたが、77年にサトウキビとの二毛作が始まった。

この15年で作付面積も栽培品種も大きく増加。2008年には作付面積は4800ヘクタールで品種は主に2種類だったが、今では作付面積は倍になり品種も10種類を超えている。

稲が植えられるのは、刈り入れ後のサトウキビ畑だ。エバーグレーズ農業地域では晩春から夏にかけて、2万ヘクタール以上のサトウキビ畑が休閑期を迎える。

昨年は、その約半分で米作りが行われた。畑の残り半分は、次のサトウキビ栽培のシーズンまで放置されるか、稲を植えないままで水が張られる。これは休閑地湛水(たんすい)と呼ばれる。

鳥にも生活の場を提供

周辺の18万ヘクタール近い土地は、フロリダ州南部特有の土壌「ヒストソル(Histosols)」で覆われている。ヒストソルは有機質に富んだ湿った土で、最大で80%の有機物を含んでおり、農業を支える重要な資源だ。

ヒストソルは数千年の年月をかけて形成された。水に覆われた湿原では、植物などに由来する有機物が、分解されるよりも先に堆積していく。

だが1900年代初めに農業生産のために土壌の水抜きが行われるようになると、有機物は堆積するよりも先に分解されるようになってしまった。これは主に、微生物がゆっくりと有機物を分解し、自らの栄養とした際に起こる酸化による。その結果、土壌は徐々に減少し、厚みを失っていった。

この地域での土の厚みは場所によって異なるが、数センチから150センチ程度。表土が薄くなって下にある石灰石の岩盤がむき出しになったり、石灰石の破片が土壌に交ざったりしている場所も多い。

米作りは土壌の健康維持に一役買っている。一定期間、田に水を張ることで、害虫の卵の孵化だけでなく微生物の活動も抑えられる。また、土壌そのものの保水能力が向上し、雨の少ない季節になっても土壌がより多くの水分を保持できるようになるのだ。

こうして土壌の健康が改善されると、サトウキビの収量も上がる。表土が減っていくスピードも遅くなる。

水田で稲を育てると、オオシラサギやユキコサギ、ブロンズトキといった湿地で暮らす鳥たちが集まってくることも分かっている。

エバーグレーズ農業地域に集まる鳥たち - The Everglades Foundation

The Conversation

Jehangir Bhadha, Associate Professor of Soil, Water and Nutrient Management, University of Florida

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.


座談会
「アフリカでビジネスをする」の理想と現実...国際協力銀行(JBIC)若手職員が語る体験談
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ガザ全域で通信遮断、イスラエル軍の地上作戦拡大の兆

ワールド

トランプ氏、プーチン氏に「失望」 英首相とウクライ

ワールド

インフレ対応で経済成長を意図的に抑制、景気後退は遠

ビジネス

FRB利下げ「良い第一歩」、幅広い合意= ハセット
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 8
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 10
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中