最新記事
映画

20分ごとの急展開に「爆笑」する人も?...映画『教皇選挙』は「B級サスペンス」で「娯楽ミステリー」

A Surprising Papal Thriller

2025年3月14日(金)18時18分
デーナ・スティーブンズ(映画評論家)

声を張り上げ権力争いを繰り広げる野心家たちの中で、次期教皇を異色の存在にしたのは、その穏やかな口調だった。彼はローレンスの問いにも、淡々と答える。

次期教皇が自ら選んだ教皇名には、自分の生きざまを過ちや裏切りや罪と見なすことを断固拒否する心情が表れている。選んだ名前とは、「イノケンティウス(無垢なる者、潔白なる者の意)」。


カトリック教会の上層部を暗に批判する結末に、伝統的なカトリック教徒の一部は反発するだろう。

だが進歩派からも異論が出そうだ。結局のところ、あの結末は考察や議論の対象というより、観客をあっと言わせるための仕掛けにすぎない。リベラルな寛容の精神を曖昧にたたえたが故に、作品自体が論議を呼ぶ可能性もある。

多くの観客にとっては、人間性の核に触れてくる問題を、『教皇選挙』は善意からとはいえ恩着せがましく扱った。その意味では黒人差別を描いた『グリーンブック(Green Book)』のように、大きな物議を醸すかもしれない。

新教皇がローレンスに秘密を明かしても、教会の伝統に強いられ、本当の自分を隠すしかなかった人々の運命が好転するわけではない。

それでも結末には控えめな希望がうかがえる。何世紀も揺らがなかった権力とセクシュアリティーの通念が、バチカンの内でも外でも崩れ始める未来を、映画はこの教皇の即位に託したのではないか。

©2025 The Slate Group

Conclave
教皇選挙
監督╱エドワード・ベルガー
主演╱レイフ・ファインズ、スタンリー・トゥッチ
日本公開は3月20日

ニューズウィーク日本版 脳寿命を延ばす20の習慣
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年10月28日号(10月21日発売)は「脳寿命を延ばす20の習慣」特集。高齢者医療専門家・和田秀樹医師が説く、脳の健康を保ち認知症を予防する日々の行動と心がけ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

IMF、アジアに貿易障壁の引き下げ要請 米関税など

ワールド

中国、政府投資の構造改善へ 民生の割合拡大=発改委

ビジネス

VW、生産当面継続でも半導体供給不足の懸念高まる=

ワールド

北朝鮮の金総書記、ロシアとの軍事関係「絶えず前進」
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 2
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシアに続くのは意外な「あの国」!?
  • 3
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼稚園をロシアが攻撃 「惨劇の様子」を捉えた映像が話題に
  • 4
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 5
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 6
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 7
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 8
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 9
    「石炭の時代は終わった」南アジア4カ国で進む、知ら…
  • 10
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 9
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 10
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中