最新記事
人種問題

軽視されてきた「黒人の歴史」...忘れられた功績に光を当てる作品の意義を、モーガン・フリーマンが語る

Black History Is American History

2023年9月30日(土)17時23分
モーガン・フリーマン(俳優)
俳優のモーガン・フリーマン

彼らのような黒人たちの記録がアメリカの歴史から抜け落ちているとフリーマンは指摘する COURTESY OF THE HISTORY CHANNEL/ANDRE CHUNG

<語られていない黒人の歴史を明らかに──。第2次大戦末期に実在した黒人戦車部隊「第761戦車大隊」の記録を作品化して>

1950年頃、10代前半だった私は映画を見たり本を読んだりして過ごすことが多かったのだが、映画や本には自分のような黒人が一人の人間として描かれていないと考えるようになった。その後、映画のほうは黒人俳優のシドニー・ポワチエが登場したおかげでいくらかましになったが、それでも黒人を軽視した歴史に一石を投じる映画は皆無だった。

■【動画】歴史から抜け落ちた「黒人の功績」に改めて光を当てるドキュメンタリー『第761戦車大隊』

映画『グローリー』(89年)への出演を持ちかけられたときはうれしくて卒倒しそうだった。映画の舞台は内戦状態に陥ったアメリカだ。アメリカ人同士が南軍と北軍に分かれて戦い、健康で屈強な男たちが総動員され、しまいには第54マサーチューセッツ歩兵連隊(北軍初の正規に編成された黒人連隊の1つ)のような部隊が組織された。

この手の物語を映画にするのだと考えると興奮した。映画が完成にこぎ着けた後、映画を見た人たちから、本当に泣いた、アメリカで昔こんなことがあったなんて全然知らなかった、と言われた。

自分がそんな作品に関われたことが誇らしかった。いい刺激になり、意欲をかき立てられた。ほかにもある、と私は思った。人々が知らない歴史がまだたくさんある。だから続けよう。どうにかしてやれるのなら、やれ。前へ進むんだ。それが、おまえみたいな黒人も含めたアメリカの歴史をできる限り明らかにすることが、おまえの人生の目的になるかもしれない、と。

普通、熱中できるプロジェクトがあれば、どれだけ長い時間がかかっても実現しようと奮闘する。プロジェクトが始動しなければ、一時棚上げだ。それでも、遅かれ早かれチャンスは巡ってくる。何かの刺激、何かの出来事がきっかけになってプロジェクトが動き出すはずだ。

最前線で戦った黒人部隊

ヒストリーチャンネルで配信中のドキュメンタリー『第761戦車大隊:元祖ブラック・パンサー(The 761st Tank Battalion: The Original Black Panthers)』はまさにそんなプロジェクトだった。第2次大戦で戦闘任務に就いた初の黒人戦車部隊の物語だ。

構想が浮かんだのは数年前で、アメリカで最も成功したプロデューサー・監督の1人であるスティーブン・スピルバーグに話を持ちかけた。スピルバーグはこの物語を語ることの必要性を理解したが、何も始まらないうちに彼の状況が変わり、実現が遠のいた。

プロジェクトは棚上げになったものの、私たちは片時も忘れてはいなかった。動き出したのは、どういういきさつかは分からないが、監督のフィル・ベルテルセン、プロデューサーのジェームズ・ヤンガーとロリー・マクレアリーの力によるところが大きかった。彼らはこの物語を映画ではなくドキュメンタリーとして語ってもいいのではないかと考えた。

企業経営
ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パートナーコ創設者が見出した「真の成功」の法則
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国と推定される無人機、15日に与那国と台湾間を通

ワールド

中国、ネット企業の独占規制強化へ ガイドライン案を

ワールド

台湾総統、中国は「大国にふさわしい行動を」 日本と

ビジネス

持続的・安定的な2%達成、緩和的状態が長く続くのも
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 5
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 6
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中