最新記事

教育

数字に驚異的に強いインドと日本の子供たち、放課後にしていたこととは?

2023年1月2日(月)11時46分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

1万時間訓練すれば誰でも数字に強くなる?

しかし、計算に長けているからといって、必ずしも才能に恵まれている、ずば抜けて知能が高い、とは限らない。

たとえば、シャクンタラ・デヴィ(1929~2013年)。彼女は2つの13桁の数字の掛け算を28秒でこなして、ギネスブックに掲載された。そこで、知能検査のエキスパートである心理学者のアーサー・ジェンセンが厳密に調べたところ、デヴィは平均的な知能の持ち主だとわかった。

実地知能検査を考案したアルフレッド・ビネー(1857~1911年)は、2人のプロの劇場計算者──舞台上で計算能力を披露することで生計を立てていた人たち──の成績を、パリのボンマルシェ百貨店のレジ係たちの成績と比較した。

レジ係はそれぞれ(機械式計算機が使えなかった1890年代に)14年間の計算経験を積んでいたが、早くから数学に特殊な才能を発揮していたわけではないようだ。それでも結局、レジ係たちのほうが好成績を収めた。

実は、ずば抜けた数的能力を持ちながら、一般認知能力はごく普通、もしくは極めて低かったとされる事例は数多く存在する。(略)

こうした事例が示しているのは、計画的に訓練すれば──おそらく、専門知識を得るために推奨される「1万時間」以上取り組めば──人間は数的課題に驚くほど強くなれることだ。また、脳内の数的メカニズムが、ほかの認知メカニズムとは別個のものであることも示唆している。数的事実の記憶システムでさえ、それ専用のもののように思われる。

たとえば、ドイツの計算の達人リュディガー・ガムは口頭で提示された数字を正確に11桁繰り返すことができたが、調査の対照群も私たちの大半も、7桁ほどしか正確には繰り返せない。その数字を逆の順序で繰り返すよう求められると、ガムはさらに素晴らしい力を発揮した。逆からは12桁正確に繰り返すことができたのだ。一般の人は5~6桁しかさかのぼれない。

ところが、文字で同じことをするよう求められると、ガムの成績はごく普通だった。そして、すでに話したように、驚異的な計算能力を持つ人たちの中には、数以外の情報の記憶力は極めて低い人たちもいた。こうした例から、数に関しては少なくとも部分的には、別個の認知システムがあることがうかがえる。

実は、こうしたスキルは、一度身につくと無意識のうちに展開され、数を数えている人は、数えているという自覚がない。それでも私たち科学者は、彼らが数えていることを知っている。理由は、彼らが自覚して取り組む課題に、無意識に数えていることが測定可能な影響を及ぼすからだ。(略)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ロシアの制裁逃れ対策強化を、米財務長官が欧州の銀行

ワールド

シリア大統領夫人、白血病と診断 乳がん克服から5年

ワールド

タイ、追加刺激策が必要 予算増額を閣議了承=財務相

ワールド

「金利のある世界」、財政健全化進める=財政審建議で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル…

  • 7

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 8

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 9

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 5

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中