最新記事

追悼

竹田圭吾氏の原点――天の邪鬼な魂よ、永遠なれ

2016年1月15日(金)13時28分
藤田正美(本誌元編集長)

竹田圭吾:1964-2016年。東京生まれ。慶応義塾大学文学部卒業後、スポーツ雑誌で米国プロスポーツ取材多数。1993年に「ニューズウィーク日本版」編集部に移り、98年より副編集長、2001年1月~2010年9月に編集長。フジテレビ系「情報プレゼンター とくダネ!」「Mr.サンデー」やテレビ朝日系「やじうまテレビ」のコメンテーター、J-WAVE「JAM THE WORLD」パーソナリティー等を務めた。 Photo by Makoto Ishida

 竹田圭吾さんが亡くなった。51歳という若さである。まるで人生を駆け抜けたかのようにも見える。

 1986年の創刊に携わり、その後一度は離れたニューズウィーク日本版の編集部に私が戻ったのは、1994年だった。その時に彼がいた。当時はまだ若手で、がっしりした体つきが印象的だった。一緒に仕事をした期間はほぼ10年になる。その間に、彼は副編集長になり、やがて私の後を継いで編集長になった。

 ニューズウィーク日本版というのは、メディアの中では特異な存在だ。米誌ニューズウィークの「日本語版」だが、同時に日本のメディアでなければならなかった。翻訳しているだけの雑誌では、読者の支持を拡大することはできなかったからだ。

 どういう性格の雑誌にすべきか、路線についてはいつも議論があった。100%翻訳でいいという意見もあった。米誌ニューズウィークを日本語で読みたいからというのである。日本の調味料で味付けすべきだという意見もあった(これは創刊時に作家の開高健さんが言った言葉だ)。そこでニューズウィークの記事に関連する内容の記事を日本版編集部で独自に制作した。それが最初のころである。

 竹田さんが編集部に加わったころでも、日本版で制作する記事の内容やら分量について日本と米国の間にも、日本版編集部の中にもまだ共通の理解はなかったと思う。大きく変わったのは1995年、日本で二つの世界的大事件が立て続けに起きたからだ。ひとつは阪神淡路大震災、もうひとつは地下鉄サリン事件である。

 もちろん現場での取材力や報道力では日本のメディアに敵わない。日本版としてできることは、日本で起きた事件に海外から光を当ててみることだった。地震のときは、PTSD(心的外傷後ストレス障害)という言葉を「輸入」した。FEMA(米連邦緊急事態管理庁)という組織を詳細に紹介したのも、日本版が初めてだったと記憶する。オウムの事件では、海外におけるカルト教団の事件の例をさまざま取り上げた。そういった取り上げ方でニューズウィーク日本版の独自性を積み上げることができた。

 他にはないユニークな見方、これは竹田さんがその後の活動の中で最も重要視したキーワードではなかったかと思う。我田引水的な言い方になるが、それはニューズウィーク日本版の編集部にいたからこそ会得したものではなかっただろうか。竹田さんが確かこんなことを書いていた。テレビのコメンテーターとして、皆が右というなら、たとえ右と思っていても、自分は左とコメントするといった主旨のことである。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米失業保険継続受給件数、10月18日週に8月以来の

ワールド

中国過剰生産、解決策なければEU市場を保護=独財務

ビジネス

MSとエヌビディアが戦略提携、アンソロピックに大規

ビジネス

英中銀ピル氏、QEの国債保有「非常に低い水準」まで
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中