最新記事

大学

なぜ、日本は<異端>の大学教授を数多く生み出したのか

2019年6月27日(木)19時10分
松野 弘(社会学者、大学未来総合研究所所長)

ではマスコミで知られている官僚から大学教授に転身した例(過去から現在)を挙げよう。

90年代の住専問題で銀行に多額の公的融資を認めた元大蔵省(現在は財務省)銀行局長の西村吉正氏は、退任後、2007年に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授として就任し、2010年に定年となっている。かつての早稲田大学からすれば、行政権力の象徴である中央省庁の高級官僚を専任教授として迎え入れるなど考えられないことである(彼は早稲田大学教授に就任以前は博士号はなく、就任後、2003年に勤務先のアジア太平洋研究科から博士[学術]を付与されている)。

また、現在でも経済評論家としてテレビ等で活躍している青山学院大学特別招聘教授(2010年就任)の榊原英資氏は、大蔵省の財務官から、慶應義塾大学グローバルセキュリティ研究所長・教授、早稲田大学総合研究機構・客員教授(専任扱い)を経て、現職。経済政策の評論では有名であるが、経済政策に関する学術的な著作や論文を読者の皆さんは見かけたことがあるだろうか(榊原氏は政府の在学研修生として派遣されたミシガン大学で博士号を取得している)。

中央大学大学院法務研究科教授の森信茂樹氏も、財務省・財務総合研究所長を経て、2007年から現職。

竹中平蔵氏(元金融・財政担当大臣、総務大臣)の秘書官を勤めた元経済産業省の岸博幸氏は、慶應義塾大学のデジタルメディア・コンテンツ統合研究機構准教授(2006年)を経て、2008年に同大学院メディアデザイン研究科教授となっている。

他方、竹中氏は政界を退いた後、慶應義塾大学総合政策学部教授となり、同大学定年後、東洋大学国際地域学部教授、現在は同大学国際学部グローバル・イノベーション学科教授となっている(東洋大学は65歳が定年であるが、特別な場合に限り、教授としての任用が認められている)。

彼も小泉内閣時代(2001年4月~2006年9月)の大臣在職当時ほどではないが、メディアへの露出度は高い。

一般的には、中央省庁の官僚が大学教授へ転身するようになったのは大学設置基準緩和以降のことと思われているが、歴史を繙いてみるとそうではないことがわかる。

前述したように、明治時代、帝国大学(現在の東京大学)が設置された頃に、正統なアカデミック教授ではない、行政実務経験を積んだ官僚が社会人教授として登用されていたのである。

西欧の近代化に追いつくために、すぐれた行政官僚を養成するべく帝国大学を設置したが、外国人教師だけでは人数が足らず、帝国大学卒業生で官僚になった人材から大学教授を招聘したのであった。

とりわけ、東京帝国大学に経済学部が誕生した際には、河合栄治郎(農商務省)、大内兵衛(大蔵省)、矢内原忠雄(住友総本店)などが、また、法学部には、田中耕太郎(内務省)、南原繁(内務省)、高木八尺(大蔵省)などが社会人助教授として就任し、後に教授となっている。

この背景には大学教員の人材不足があるが、この時代にすでに、大学と行政・企業の世界との人事交流があったとみてもおかしくはないだろう(『大学という病』竹内洋、中央公論新社、2001年)。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米バークシャーによる株買い増し、「戦略に信任得てい

ビジネス

スイス銀行資本規制、国内銀に不利とは言えずとバーゼ

ワールド

トランプ氏、公共放送・ラジオ資金削減へ大統領令 偏

ワールド

インド製造業PMI、4月改定値は10カ月ぶり高水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 8
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 9
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中