最新記事
欧州経済

企業投資はドイツからフランスへ...経済的な力関係が変化「マクロン大統領の就任以来、事業環境が改善」

2024年5月25日(土)20時09分
ロイター
フランスに投資を呼び込むマクロン大統領

5月23日、ドイツの電子部品メーカー、ハーガー・グループは事業拡大に向けた新工場の建設場所を国内とフランスのどちらにするか迷った結果、フランスを選択した。写真は13日、ベルサイユ宮殿で開かれた投資誘致イベントでスピーチするマクロン仏大統領。代表撮影(2024年 ロイター)

ドイツの電子部品メーカー、ハーガー・グループは事業拡大に向けた新工場の建設場所を国内とフランスのどちらにするか迷った結果、フランスを選択した。

グループ会長のダニエル・ハーガー氏はロイターに、フランスの法人税軽減措置や、工場立地探しに対する地元当局の支援、さらに企業にとって悪名高い同国の厳格な労働規制を柔軟に運用できる余地ができたことなどが、決め手になったと明かす。

これはまさに、マクロン大統領が就任から7年かけて打ち出してきた企業寄りの改革が、ユーロ圏の経済規模ビッグ2であるフランスとドイツの経済的な力関係を変えたことを物語っている。

もはやフランスの高い税率や、ドイツの週40時間よりも少ない週35時間の労働制に外国投資家が不満を唱えていた時代は遠い昔となり、フランスへの外国からの直接投資は記録的な水準に達しつつある。

ハーガー氏は「マクロン氏が大統領に就任して以来、企業にとって事業環境ははっきりと改善し、歓迎されている」と語った。

ドイツの雇用の55%を占め、家族経営型が多い中堅・中小企業の典型と言えるハーガー・グループは、引き続き国内にも投資しているが、結局フランス東部のアルザス地方に1億2000万ユーロ(1億3000万ドル)を新たに振り向けることになった。

26日にフランス大統領として2000年以降で初めてベルリンを公式訪問するマクロン氏は、前任者たちのように外資誘致競争で置き去りにされることをあまり心配せずに済む。2000年当時、フランスは週35時間労働制を導入したばかりで多くの外国投資家にそっぽを向かれていた一方、ドイツは労働改革を強化し、06年から10年間にわたる力強い輸出拡大基調の土台を築いた。

ところが近年、そのドイツの経済成長モデルには疑念が生じている。中国向け輸出や安価なロシア産天然ガスに依存し過ぎた上に、インフラの老朽化や電力価格の高騰、緊縮財政などが重くのしかかっているからだ。

対照的にフランスは、原子力エネルギーを長期的に推進してきた経緯もあり、外国のハイテク企業からの投資も増えている。例えばマイクロソフトは、膨大な電力を消費するデータセンターを同国に建設する。

<欧州トップ>

コンサルティング会社EYの年間調査によると、ドイツが勢いを失い、英国も欧州連合(EU)離脱による逆風が依然尾を引いている中で、フランスは2019年から欧州で外国からの直接投資が最も多くなっている。

マクロン氏が企業投資誘致のためにベルサイユ宮殿で毎年開催している会議では今年、過去最高となる150億ユーロ相当の投資の約束を獲得。また同氏は法人所得税率を25%に引き下げることなどで、企業の年間の税負担を250億ユーロ圧縮したほか、他の事業関連税を軽減したり撤廃したりしている。

ドイツ貿易・振興機関によると、同国の平均的な法人税率は30%弱だ。

マクロン氏は、労働裁判所向けの雇用主拠出金負担を抑え、週35時間労働制をより柔軟に運用することを企業に認めるなど、労働市場改革も推進した。

通信ネットワーク機器を手がける米シスコのフランス代表を務めるローラン・デュグレ氏は、ハイテク部門の外国投資家が渇望してきた良好なインフラや技能を備えた労働力に、税負担軽減が加わって、フランスの事業環境の優位性がさらに高まっていると指摘。「ドイツや英国などの競争相手に比べてフランスは全ての面で最も魅力的というわけでないが、投資をする場合に重要な条件の組み合わせを完全に満たしている」と述べた。

外国投資家は、長らく多国籍企業を引き寄せる大きな要素となってきた研究開発向けの大幅税額控除を巡り、野党側の縮小要求をマクロン氏がはねつけている点も高く評価している。

米食品大手マースのフランス代表を務めるロマン・デュマ氏は「われわれは安定的な政策が必要であり、半年ごとに政策がころころと変わる不安を持たないで済むことを求めている」と強調した。

<残された課題>

フランスは企業寄り政策が実を結び、マクロン氏が初当選した17年以降の経済成長率はドイツの2倍以上に達していることが、ロイターの計算で分かる。フランスの雇用数も過去最高水準だ。

EYの調査によると、外資が創出した雇用数は昨年4%増加した。

ただ外国投資家の人気を集めているこうしたマクロン氏の改革は、しばしば有権者の感情を逆なでし、同氏の支持率は低迷している。

フランス経済には、生産性の伸び悩みから過大に膨らんだ財政赤字まで、さまざまな問題も残されたままだ。

外国投資家からは、特に行政手続きの簡素化についてはマクロン氏にはまだなすべきことがあるとの声も聞かれる。

ハーガー氏は、外国投資がフランスに大きく流入しているとしても、同国の工業セクターがドイツに追いつくまでの道のりはなお非常に長い、と話している。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2024トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 教養としてのミュージカル入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年3月17号(3月10日発売)は「教養としてのミュージカル入門」特集。社会と時代を鮮烈に描き出すポリティカルな作品の魅力[PLUS]山崎育三郎ロングインタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ホルムズ海峡付近で3隻に飛翔体、タイ船の火災で3人

ビジネス

IEA、最大規模の石油備蓄放出勧告へ 計4億バレル

ワールド

イラン、米・イスラエル関連の域内経済・銀行拠点をを

ワールド

市場変動が経済への衝撃増幅も、さまざまなシナリオ検
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開された皇太子夫妻の写真が話題に
  • 4
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 5
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 6
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 7
    「一日中見てられる...」元プロゴルファー女性の「目…
  • 8
    人間ダンサーを連れて「圧巻のパフォーマンス」...こ…
  • 9
    イランがドバイ国際空港にドローン攻撃...爆発の瞬間…
  • 10
    ホルムズ海峡封鎖、石油危機より怖い「肥料ショック」
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 4
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 5
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 6
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 9
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示…
  • 10
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だっ…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中