最新記事
鉄鋼

日本製鉄によるUSスチールの買収・子会社化...「待った」をかけたバイデンの「本音」

Can A Deal Be Made?

2024年3月25日(月)16時30分
リチャード・カッツ(ジャーナリスト)
ペンシルベニア州クレアトンにあるUSスチールのモン・バレー製鉄所 AP/AFLO

ペンシルベニア州クレアトンにあるUSスチールのモン・バレー製鉄所 AP/AFLO

<日本製鉄による買収・子会社化に、官民挙げて「NO」の大合唱。だが労組さえ合意すれば、いつでも「YES」に転じる>

かつての鉄鋼王国アメリカの象徴ともいえる会社USスチール(1901年創業)を、日本企業(日本製鉄)が買収して子会社とする──ある意味「歴史的」ともいえるこの案件で、両社が合意に達したのは昨年12月のことだ。

しかしジョー・バイデン米大統領は去る3月14日の声明で、USスチールが「今後もアメリカ企業であり続け、国内で所有・運営されていくことは死活的に重要」だと述べて買収に待ったをかけた。今秋に迫る大統領選で苦戦を強いられているバイデンとしては、少しでも支持率を回復したい思いがあったのだろう。実際、翌週にはUSW(全米鉄鋼労組)がバイデン再選支持を正式に表明している。

ただしUSWは、今回の買収提案を頭から否定してはいない。今も買収を承認するために必要と考える条件を満たすべく、水面下で日本製鉄との交渉を続けている。交渉は難航が予想されるが、どちらも本気であり、11月初めの大統領選までには合意に達したいと考えている。

合意すれば、バイデンは前言を翻して買収支持に転じることができる。政府の対米外国投資委員会(CFIUS)も、おそらくゴーサインを出す。ちなみに日本勢による米企業の買収をCFIUSが阻止した例は過去に一度もない。

両社の合併話が初めて公になった際に、ホワイトハウスは型どおり、CFIUSが国家安全保障やサプライチェーンの観点から本件を精査するとの声明を出した。しかし買収反対とは言っていない。下手に口を出せば日米関係に傷が付くし、それで中国が図に乗れば、東アジア全域の安全保障が脅かされる。

だからバイデン政権としては、日本製鉄との協議を通じてUSWが買収提案を受け入れることを望んでいる。ただし、話がつかなければ買収を阻止する。それでドナルド・トランプの大統領復帰を防げるなら、少しくらい日米関係に傷が付いてもいい。それがバイデン政権の本音だ。

ちなみに、日本の岸田文雄政権はひたすら沈黙を守っている。余計な緊張は招きたくないからだ。

幸いにして、日本製鉄とUSWは2月下旬に秘密保持契約を結んだ。これで本気の秘密交渉に入る法的な手続きが済んだ。そして3月7日には、日本製鉄の森高弘副社長がUSWのデビッド・マッコール会長を表敬訪問している。森は今回の買収プロジェクトを率いる立場にある。この初会談について、USWは「何の進展もなし」という厳しい評価を下しているが、この手の交渉で労組側が強気に出るのは毎度のことだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮、韓国に向け新たに600個のごみ風船=韓国

ワールド

OPECプラス、2日会合はリヤドで一部対面開催か=

ワールド

アングル:デモやめ政界へ、欧州議会目指すグレタ世代

ワールド

アングル:アルゼンチン止まらぬ物価高、隣国の町もゴ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    キャサリン妃「お気に入りブランド」廃業の衝撃...「肖像画ドレス」で歴史に名を刻んだ、プリンセス御用達

  • 3

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...すごすぎる日焼けあとが「痛そう」「ひどい」と話題に

  • 4

    ウクライナ「水上ドローン」が、ロシア黒海艦隊の「…

  • 5

    ヘンリー王子とメーガン妃の「ナイジェリア旅行」...…

  • 6

    「自閉症をポジティブに語ろう」の風潮はつらい...母…

  • 7

    ロシアT-90戦車を大破させたウクライナ軍ドローン「…

  • 8

    1日のうち「立つ」と「座る」どっちが多いと健康的?…

  • 9

    米女性の「日焼け」の形に、米ネットユーザーが大騒…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 4

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 5

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 6

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 7

    仕事量も給料も減らさない「週4勤務」移行、アメリカ…

  • 8

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 9

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中