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日本はSDGs浸透度「世界一」、この武器をどう使うかが次の課題だ──蟹江憲史教授

蟹江憲史

Photo:遠藤 宏

――日本の一番の課題は政策面ということか。

日本の社会は、お上が動かないとなかなか動かないようなところがある。いろいろなアンケート調査結果を見ても、SDGsをすでにやっている人や会社は一定程度あるが、なにかきっかけがあればやりたいと思っている人も多い。

その背中を押すのは政府の動き。政府が本気になって、この分野で国際的な標準化を取りに行くとか、成長のコアの部分に据えるとか、そういう話がまだ出てきていない。SDGsの本質は経済成長戦略なのです。

――政策面以外に、SDGsのこの分野は日本が進んでいる、あるいは遅れているといった特徴を教えてほしい。例えば、ジェンダーの問題などは日本は弱いと思うが。

そうですね。ジェンダーは弱い。あとは環境分野も、あまり強くないという認識になってきている。昔の日本は環境技術が進んでいたが、ここ20年ぐらいで、ヨーロッパや中国に追い抜かれてしまった。気候変動対策でも、遅れているとされている。

一方で、教育は日本で最も進んでいる分野と言っていいかもしれない。SDGsに関しても、今では小学生や中学生のほうが、大人よりむしろ詳しかったりするし、ジェンダー教育も進められている。

ほかには、国民皆保険制度がある保健分野。まちづくりや建築なんかも、進んでいると思う。断熱に補助金が出たりしているが、それだけでは不十分。例えば、断熱と同時に、そこで働く人の働き方やジェンダーの取り組みもパッケージにしてだすなど、(SDGsの取り組みを)応援する政策がもっと必要だ。

これまでのように「鉄と車」で勝負するというような方針が、たぶん通用しなくなっていくだろう。自動車業界で言っても、今後のエネルギーシフトを考えると、完全なEVシフトではなくハイブリッドも必要と、日本の自動車会社などは主張しているが、もっと発信の仕方を工夫する必要があると思う。人々の頭の中が軒並みEVとなっているヨーロッパからすれば、「いまだにハイブリッド?」と思われてしまうかもしれない。

エネルギー転換や製造工程での資源循環とパッケージにして打ち出すとか、そこまでやれていないのが日本の弱み。政策をどこまで巻き込めるかがカギになるのではないか。

企業の人たちはわりと危機感を持っていて、今は企業の取り組みのほうがむしろ進み始めているが、それだと点にしかならない。点を線に、線を面にしていくために、やはり政策の力が非常に重要だと思う。

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