最新記事

米社会

凄惨な殺人現場に、28トンのゴミに埋もれた屋敷...アメリカ特殊清掃員の「仕事場」

Cleaning Up Crime

2022年9月16日(金)17時20分
ローラ・スポールディング(特殊清掃会社スポールディング・ディーコン創業者兼オーナー)
ローラ・スポールディング

血液などからの感染リスクもあるため防護服を着て作業に当たる LAURA SPAULDING

<流血の惨状やゴミの山におののくこともあるが、人々が悲しみにを乗り越えて前に進むのを助ける特殊清掃はやりがいがある>

父親が警察官だった影響で、子供の頃から警察の仕事をしたいと思っていた。カンザスシティーの市警察に採用されたのは1997年のこと。暴力犯罪の発生率が高い都市なので、むごたらしい現場を多く目にした。死体を初めて見たのは警察学校を出たての頃。ホテルのベッドの上で亡くなり、死後しばらくたって発見された男性の死体は腐敗ガスで膨らんでいた。

それから数年して仕事にも慣れてきた頃のこと。殺人現場で捜査を行った際、被害者の母親に「いつ家の清掃に来てくれるの」と聞かれた。そんな質問は初めてだった。

言われてみれば現場はひどい状況だが、清掃は警察の仕事ではない。調べて分かったのだが、通常はプロの業者が清掃を行うという。

それを知ってハッとひらめいた。犯罪現場を見慣れた自分にうってつけの仕事だ!

特殊清掃の訓練を受け、2005年に会社を立ち上げた。当初、社員は私1人。起業資金もわずかだったので、自分で歩いて宣伝して回った。

初仕事はクリスマスに起きたダブル殺人の現場の清掃。家族の中の2人が口論になり、キッチンで互いを射殺したのだ。特殊清掃では、新米でもいきなりこんな大仕事をやる羽目になる。

2日半ほどかけて何とかやり遂げ、大きな達成感を得た。これは人々が悲しみやショックを乗り越えて前に進むのを助ける仕事だと実感した。

背筋が凍り付く現場も

特殊清掃は普通の清掃とは全く違う。掃除は部屋の隅から始めるのが常識だが、特殊清掃はその逆で、二次汚染を避けるため天井から壁、そして床へと作業を進めていく。強力な消毒剤、脱臭剤、オゾンミスト発生器を使い、場合によっては床や壁を部分的に解体する作業も必要になる。

家具、布類、細かな装飾などが血痕や体液で汚染されていないか細かくチェックする。非常に神経を使う仕事だ。

入り口の壁に血が滴り落ちている犯罪現場の清掃に当たったこともある。一歩足を踏み入れると、そこはホラー映画『シャイニング』の世界。血の洪水が起きたかのような惨状に背筋が凍り付いた。

だが最も厄介なのはゴミ屋敷の片付けだ。異臭を放つ大量のゴミに加え、心理的にゴミをため込むようになった住人を相手にしなければならず、肉体的にも精神的にも消耗する。ゴミ屋敷に比べれば、複数の死者が出た銃撃現場の清掃のほうがましだと、わが社のスタッフが言うほどだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 9

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中