最新記事

自動車

日本でEVが普及しない根本原因とは ── 30分かけても高速道1時間分しか充電できない

2022年7月23日(土)12時30分
山崎 明(マーケティング/ブランディングコンサルタント) *PRESIDENT Onlineからの転載

このような状況ゆえ、BEVでの長距離ドライブは非常にハードルが高い。充電待ちがなくても1時間ごとに30分充電しなければならないのだから。相当時間にゆとりがあり、充電の待ち時間が苦にならないという性格の人でなければ耐えられないだろう。

生活圏での使用に便利な日産サクラ

反面、片道1時間程度の短距離にしか使わないのであれば、就寝時の自宅での充電だけで済み、ガソリンスタンドに行く必要もない。電気にはガソリンのような高額な税金が課されていない(ガソリンは1リットルあたり53.8円が税金)ので、ランニングコストも安い。

近所でしか使わないセカンドカーやサードカーならBEVは非常に便利かつ経済的だ。さらに、高速道路を使わなければ電費もよくなる。

軽自動車であるサクラだけが突出して売れるのは、非常に理解できる現象だ。

サクラを予約した人は2台以上車を保有している人、あるいは高齢者が多いということだが、まさにそのような使い方を想定しての購入だろう。

高齢者はロングドライブには行かないだろうから、自宅に充電設備さえ整えられればとても便利な車となる。充電器の設置は5万~10万円程度で可能で、サクラであれば3kW級の普通充電器でも約8時間でフル充電にできる。

中大型BEVが「テスラしか売れない」特殊要因

一方、アリアは高価でサイズも大きいので、セカンドカーや高齢者の需要とはマッチしない。

また、家庭で満充電にするためには高価な高出力充電器を設置する必要がある(3kWの充電器では小さいほうのバッテリーを搭載したモデルでもフル充電に25.5時間もかかる)。そして遠距離ドライブには上記の困難が待っている。

だから売れないのである。

BEVを実際に買おうとしている人は、BEVの現実をわかったうえで購入しているのである。中大型BEVではテスラが売れているが、これもスーパーチャージャー網の存在という実用上の理由がある。

「低圧受電」か「高圧受電」か、それが問題だ

それではなぜ、日本で高出力の充電器の設置が進まないのか。その最大の要因は電力会社との契約形態にある。おおよそ50kWを境に、契約のあり方が根本的に変わるのである。

50kW未満であれば低圧受電契約となり、通常の200Vでの受電となる。しかし50kWを超えると高圧受電契約となって6600Vでの受電となり、それを目的に応じて適切な電圧に変圧するためのキュービクルという設備が必要となる。そのため、50kWの充電器であれば約500万円で設置できるのに対し、100kW級を設置しようとすれば約2500万円もかかるのだ。

設置費用だけでなく、受電の基本契約料も高圧受電のほうが高く、またキュービクルには定期的な保守点検が必要になるためメンテナンス専門業者と契約しなければならない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 9

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中