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世界一「チャレンジしない」日本の20代

2015年12月1日(火)17時00分
舞田敏彦(教育社会学者)

 これはアメリカとの比較だが、もっと多くの国を含めた世界全体での日本の位置付けを見てみよう。<図2>は、右軸にクリエーティブ志向、縦軸に冒険志向の肯定率をとった座標上に、59の国を配置したグラフだ(英仏は調査に回答せず)。

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 日本は最も左下にある。若者のクリエーティブ志向・冒険志向は世界で最低だ。諸外国の群れから大きく外れ、その低さは際立っている。

 先程比較したアメリカはちょうど真ん中くらいで、それを上回る社会も結構ある。ナイジェリア、ガーナ、南アフリカ、フィリピンなどの発展途上国だ。こうした社会では、若者のクリエーティブ志向や冒険志向が強くなるのだろうか。

 お隣の韓国は日本と近い位置にあると思いきや、そうではない。この国では、冒険志向の若者の比率が高い。日本以上の超学歴社会で、一流企業に入るには英語力や海外留学経験が必須だと言われている。国内の就職が厳しいので、活躍の場を国外に求める若者も多い。韓国の若者の冒険志向(外向き志向)が反映されている。

 これに比べて日本の若者は、すっかり委縮している。社会的な統制が強いはずの旧共産圏以上だ。上の図を経団連の幹部が目にしたら、複雑な思いを禁じ得ないだろう。もっと学生の創造力やチャレンジ精神を鍛えて欲しいと大学に要請してくるかもしれない。

 しかし企業の側も、若者の扱いについて少し反省したほうがいい。クリエーティブな人材が欲しいと言いながら、斬新なことを提案したり、商談でイニシアチブを取ったりする若手を「生意気だ」と言って排除していないだろうか。こういう面での年功序列はいまだに幅を利かせている。

 冒険志向の低さは,失敗(道草)に寛容ではない日本社会の思想を反映している。企業の採用は新卒至上主義で、それができなければ翌年から「既卒」の枠に放り込まれて多大な不利益を被る。(新卒枠での)就職活動に支障が出るからと、留学をためらう学生も少なくない。新卒一括採用という、おそらくは日本固有の奇妙な慣行はいまだに是正されていない。履歴書の空白期間をとがめるような社会では、若者の冒険志向は高まらない。

 人間は年齢を重ねると柔軟な思考ができなくなる。守るべき地位や財産を持つようになって、リスクを冒すことは控えるようになる。クリエーティブな発想をして、冒険ができるのは若者の特権で、それを抑えつけるのは大きな損失だ。これからの日本では、少子高齢化で若者はますます希少になる。その人的資源の力を十分に活用することなしに、日本がイノベーション社会に進化することはできない。

<資料:『世界価値観調査』(2010~14年)

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[筆者の舞田敏彦氏は武蔵野大学講師(教育学)。公式ブログは「データえっせい」、近著に『教育の使命と実態 データから見た教育社会学試論』(武蔵野大学出版会)。]

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