最新記事

調査

中国企業のイノベーション志向を探る

国や企業の「文化」はイノベーションにどう影響するか、また外国企業が中国で気を付けるべきこととは

2015年8月26日(水)16時30分
ヤン・シアオトン ※Dialogue Review Jun/Aug 2015より転載

今こそ問われる イノベーションに関わる文化的特性を中国企業はどう捉えているか Nikada - iStockphoto.com

 アイデアの創出から商業化へと至るイノベーションのプロセスにおいて、「文化」は重要な役割を果たす。

「文化の違いは、イノベーションにどのような影響を及ぼすのか」。この問いに答えるために、私たちは、国単位のイノベーション力と文化的特性を反映したデータを集めることにした。国民文化・組織文化研究の第一人者、ヘールト・ホフステードは、2010年の共著書『Cultures and Organizations』(邦訳『多文化世界――違いを学び未来への道を探る』有斐閣)において、次の五つのディメンションで文化を分析している。

1.権力の格差指標(PDI):権力の弱い者たちが、社会の不平等をどれだけ受け入れているか。
2.個人主義か集団主義か(IDV):どれくらい個人が集団を意識しているか。
3.性別役割意識(MAS):男女による違いをどれだけ意識しているか。
4.不確実性の回避指標(UAI):不確実、あるいは未知の状況をどの程度脅威に感じるか。
5.長期志向(LTO):将来を見越した長期的視野をもっているかどうか。「放縦か抑制か(IVR)」すなわち個々人がどれくらい自らの欲望や衝動をコントロールしようとしているかも、このディメンションに含まれる。

 2009年と2010年にINSEAD(フランスとシンガポールに拠点を置くビジネススクール)とインド産業連盟が作成した「グローバルイノベーション指標(GII)」報告では、132カ国のイノベーション力のスコアと順位が発表されている。これに基づき、各国の文化的特性とイノベーション力の関係の回帰モデルを調べてみた。ちなみにPDIとIDVにはきわめて強い逆相関関係があるため、IDVは回帰式から除外した。

 回帰式は次のようになる。

・国のイノベーション力(GII)=3.921+(-0.018×PDI)+(0.016×LTO)+(-0.007×UAI)+(0.009×IVR)

 この式は、INSEADとインド産業連盟の調査から見出された以下の事実を根拠としている。

・MAS(性別役割意識)は、イノベーションに影響を及ぼさない。
・PDI(権力の格差指標)が高いとイノベーションに好ましくない。
・LTO(長期志向)が高いとイノベーションに好ましい。
・不確実性を回避する傾向が強い文化ほどイノベーション力は低い。
・欲望と衝動は、より大きなイノベーションに結びつく場合がある。

レノボやシノペックなど中国企業30社を調査

 こうした国単位の文化的特性とイノベーションの関係は、個別の企業にも当てはまるのだろうか。それを調べるために中国企業30社を調査した。調査対象には、シノペック(中国石油化工集団公司)やCIIC(中国国際技術智力合作公司)などの国有企業と、中国民生銀行やレノボなどの非国有企業が含まれる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、28年副大統領候補への出馬否定 「あざ

ビジネス

米国株式市場・午前=主要3指数、日中最高値 米中貿

ワールド

ロシア大統領、北朝鮮外相と会談 両国関係は「全て計

ワールド

トランプ氏、ベトナム産コーヒーの関税免除 貿易協定
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 3
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下になっていた...「脳が壊れた」説に専門家の見解は?
  • 4
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 5
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 6
    中国のレアアース輸出規制の発動控え、大慌てになっ…
  • 7
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 8
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    「死んだゴキブリの上に...」新居に引っ越してきた住…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中