最新記事

経営戦略

日本企業は昔のパンパースと同じ間違いを犯している

ブランド価値が企業の優劣を決める今、やみくもに品質を追求してじり貧に陥らないための、本当の成長戦略とは

2013年1月22日(火)16時40分
千葉香代子(本誌記者)

メンター P&Gを大きく成長させた経験から経営者に助言するステンゲル

 日本ブランドが危なくなって久しい。今では世界に2つとない心躍る製品を生み出しているのはソニーでもパナソニックでもなくアップルであり、アップルを脅かしているのはサムスン電子だ。さらにそのすぐ後ろには、中国勢も迫っている。

一方、株式時価総額に占めるブランド価値の比率は高まる一方で、ブランド戦略は成長戦略そのもの。米プロクター&ギャンブル(P&G)の元グローバル・マーケティング責任者で『本当のブランド理念について語ろう──「志の高さ」を成長に変えた世界のトップ企業50』の著者であるジム・ステンゲルに、ブランド価値向上の秘訣と日本ブランド再生のヒントを聞いた。

──消費者の忠誠心と財務成績をベースに世界のトップブランドをランキングした「ステンゲル50」に入った日本企業は、楽天市場一社だけだった。なぜこんな結果になったと思うか。

 日本にもトヨタ自動車のように素晴らしい会社があり、私は高く評価している。東日本大震災の影響がなければ、トヨタはリスト入りしていただろう。

 一方、日本企業はあまりにも長い間、製品、技術、生産すべてがうまく行き過ぎて、マーケティングをあまり重視してこなかったのも事実だ。製品は勝手に売れたし、販売網もあったし、市場も大きかった。未来を作らず、新しい需要も作らず、革新的な製品も生まれない。だが、今後数年の間には非常に面白い変化が起こるだろう。主要産業の主要企業のなかにも、うまくいかないところが出てきたからだ。

  成長する企業はマーケティングを重視し、グローバルに戦えるブランドを作る。日本に必要なのはグローバルブランドだ。韓国にも中国にも非常に強いブランドがある。日本企業はいくつかの韓国企業に遅れているし、中国企業も急速に台頭している。彼らには、グローバルブランドを作ろうという大きな野心がある。その点、日本は遅れている。

──アメリカの優良企業で構成するS&P500社の株式時価総額のうち、1980年にはほとんどすべてが工場や現金などの有形資産だったが、2010年にはそれが40〜45%に落ち込んで、半分以上がブランド価値のような無形資産になったとある。

  ブランドの重要性を裏付けるデータだ。実際、「ステンゲル50」に入ったトップブランド企業とS&P500社の株価のパフォーマンスを比べると、2000年1月からの11年間でステンゲル50社の株価は382.3%、S&P500社は-7.9%と大きな差がついている。

 ブランドの価値が会社の価値の半分を占めるなら、当然、それに責任を負う人間が必要だ。日本企業には、そういう人間がいないのではないか。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏貿易黒字、2月は前月の2倍に拡大 輸出が回

ビジネス

UBS、主要2部門の四半期純金利収入見通し引き上げ

ビジネス

英賃金上昇率の鈍化続く、12─2月は前年比6.0%

ビジネス

日産、EV生産にギガキャスト27年度導入 銅不要モ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 5

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 6

    キャサリン妃は最高のお手本...すでに「完璧なカーテ…

  • 7

    韓国の春に思うこと、セウォル号事故から10年

  • 8

    中国もトルコもUAEも......米経済制裁の効果で世界が…

  • 9

    中国の「過剰生産」よりも「貯蓄志向」のほうが問題.…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入、強烈な爆発で「木端微塵」に...ウクライナが映像公開

  • 4

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 5

    ドイツ空軍ユーロファイター、緊迫のバルト海でロシ…

  • 6

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 7

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 8

    金価格、今年2倍超に高騰か──スイスの著名ストラテジ…

  • 9

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 10

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中