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ネットの「核兵器」ACTAの脅威

海賊版をダウンロードしたらあなたも逮捕される?──そんな国際条約が欧州議会で否決されたが、世界は大きく取り締まり強化に動いている

2012年7月6日(金)15時38分
ライアン・ギャラガー

緒戦の勝利 欧州議会で「ACTAよ、さらば」のプラカードを掲げる活動家たち Vincent Kessler-Reuters

 ネットの自由に対する「核兵器」とも呼ばれてきた、知的財産権の保護に関する国際条約「模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)」が4日、欧州議会で否決された。478対39の大差だった。反対派がオンラインとオフライン両方で長い抗議活動を行った成果だ。

 ACTAをめぐる議論は08年から続いている。海賊版や違法ダウンロードの取り締まりを目的としたこの条約のバックについているのは、タイムワーナーやソニー、ウォルトディズニーなど大手エンターテイメント企業が作る業界ロビー団体だ。

 しかしACTAによってネットにおける表現の自由が侵され厳しい言論弾圧につながりかねないとの懸念から、大きな抗議運動が起こった。仮に欧州議会で批准されていたら、ヨーロッパ中のネットサービス会社が自社のネットワーク内の著作権侵害を監視するための措置を強制されていたところだ。

 海賊版摘発のために国境警察によるパソコンやiPod内のファイル検査を認めるなど、ACTAで最も問題視されていた条項は非難を受けて既に草案から削られている。それでも、ACTAの法案作りは密室で行われたため非民主的だとの批判もあった。また、普通のネットユーザーがたまに海賊版をダウンロードするような場合でも、大量の海賊版の取引を商売としている犯罪者と同じように罰せられかねない心配もあった。

日本を含め8カ国が署名済み

 今回は反ACTA派が勝利したが、戦いはまだ終わっていない。欧州議会の通商担当委員は先月末に、ACTAが否決されても修正案で再提出すると予告していた。少しだけいじることでうまくごまかして、何が何でもACTAを批准させようというわけだ。

 もっと重大なのは、ACTAはヨーロッパでは否決されたが、世界のほかの地域では導入される可能性があることだ。既にアメリカ、オーストラリア、カナダ、日本、モロッコ、ニュージーランド、シンガポール、韓国の8カ国が署名している(施行には6カ国の批准が必要だが)。

 今年に入り、アメリカではオンライン海賊行為防止法(SOPA)と知的財産保護法(PIPA)の両法案の審議が延期された。英語版ウィキペディアによるサービス停止など、激しい抗議活動が起きたためだ。

 今後もネット社会を規制するような動きが出てくれば、同じように大規模な抗議運動が巻き起こるはずだ。2日には、85を超える団体が共同で「インターネットの自由宣言」を発表。検閲のない自由でオープンなネット世界を維持していこうと、国際社会に呼びかけた。
 
© 2012, Slate

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