最新記事

IT業界

アップルの頭脳流出が始まった

アップルストアの考案者とマックOSの開発者が退社。「カリスマ経営者」ジョブズの下に結集した天才たちの旅立ちの理由は

2011年7月26日(火)14時48分
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)

主を欠いて ジョブズが3度目の病気療養に入ったままのアップル本社(サンフランシスコ郊外) Noah Berger-Bloomberg/Getty Images

 アップルのCEO、スティーブ・ジョブズには多くの強みがある。その1つが、自分の周囲を奇跡的なほど優秀な人材で固められる力だ。過去10年の間に、ジョブズはあらゆる業界の中でも最強の経営チームの1つをつくり上げた。ずばぬけて有能なだけでなく、どこまでもジョブズに忠誠を尽くす男たちだ。

 だがこの数カ月の間に、側近中の側近2人が会社を去った。経営危機を唱えるのは早過ぎるが、アップル社内で何らかの権力シフトが起こっている可能性はある。それは、共同創業者でありながら一旦会社を追い出されたジョブズがアップルに呼び戻され、経営史上に残る経営再建劇を演出した96年以降の一時代に終わりを告げるものだ。

 先週、小売り担当のロン・ジョンソン上級副社長が、百貨店大手J・C・ペニーのCEOに就任するためアップルを辞めると発表した。3月には、マックOSの開発責任者で伝説的なソフトウエア技術者のバートランド・サーレイ上級副社長が退社した。サーレイは、ジョブズがアップルを追放されて新会社ネクストを設立した頃から一緒だった男だ。

 ジョブズは、3度目の病気療養に入った今年1月から経営の蚊帳の外にあった。04年に膵臓癌を切除し、その後肝臓移植手術を受けたジョブズは、今回再び癌の治療を受けているとも言われる。

 アップルのイベントでは今年も2度登壇した。先日も新サービス、iCloudを発表したばかりだ。2度とも拍手喝采を浴びてまんざらでもなさそうだったが、その姿は恐ろしく痩せ衰えていた。

病気療養から戻らない?

 ジョンソンがいなくなっても大した影響はないとアナリストたちは言うが、これがアップルにとっていいニュースのはずがない。

 ジョンソンは小売りの天才だ。安売り大手ターゲットで15年間働いた後、00年にアップルに入社。魅力的で利益率の高い直営店アップルストアの世界ネットワークをゼロから立ち上げた。

 より重要なのは、ジョンソンの退社がジョブズについて何を物語るかだ。恐らくそれは、ジョブズが病気療養から戻ってこないことと、代理を務めてきたティム・クックCOO(最高執行責任者)のCEO就任が決まったことを意味しているのではないか。

 ジョンソンの退社に当たってアップルは次のような声明を発表した。「ロンは新たなチャンスを楽しみにしているし、われわれも幸運を祈る。わが社には優秀な小売りチームが残るし、ロンの後任も積極的に探している」

 ジョンソンのほうはニュースリリースで、J・C・ペニーに行くのは小売り大手のCEOになるのが夢だったからと言っている。だがJ・C・ペニーの広報担当者によれば、同社が最初にジョンソンに声を掛けたのは数年前で、そのときは「今はその時期じゃない」と断られたという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

全米の大学でイスラエルへの抗議活動拡大、学生数百人

ワールド

ハマス、拠点のカタール離れると思わず=トルコ大統領

ワールド

ベーカー・ヒューズ、第1四半期利益が予想上回る 海

ビジネス

海外勢の新興国証券投資、3月は327億ドルの買い越
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中