最新記事

アメリカ経済

テニス全米オープンはカネのなる木

ニューヨークで開幕したテニス4大大会の今季最終戦が、不況知らずの盛り上がりをみせるのはなぜ?

2009年9月1日(火)17時20分
ダン・ウェイル

役者ぞろい スター選手の存在が幅広いファンをアリーナに呼び込んでいる(写真は8月31日、1回戦で勝利を飾った世界ランク1位のロジャー・フェデラー) Kevin Lamarque-Reuters

 経済危機のあおりを受けるスポーツイベントが多いなか、8月31日にニューヨークで開幕したテニスの全米オープンは不況とは無縁のようだ。

 2週間の会期中に見込まれる興行収入は昨年の2億800万ドルに匹敵するだろうと、主催する米テニス協会(USTA)の財務責任者ピアス・オニールは言う。「今後も幸運が続けば、大会史上屈指の成功を収められるかもしれない」

 昨今のご時世、ほかのスポーツではこんな楽観論はまず聞けない。数年前にブームを巻き起こした室内フットボールのアリーナ・フットボール・リーグは昨年12月にリーグ戦を休止し、このまま解散する気配が濃厚だ。米女子プロゴルフ協会(LPGA)では7つのトーナメントが開催中止に追い込まれ、コミッショナーのキャロリン・ビベンズが辞任した。

 一方、今年の全米オープンのチケット売り上げは800万ドルで、記録的だった昨年に並びそうな勢いだ。観客数をみても、全米オープンは毎年開催のスポーツイベントのなかでは世界一を誇る(昨年の総観客数は72万227人)。

「景気底打ち」でスポンサー続々

 この数年は、ウォール街の企業がこぞって会場付近で豪華なパーティを催し、観光関連の収入もうなぎのぼりだった。今年は経済危機で状況が一変したが、それでも観光収入も昨年の数字に迫りそうだと、オニールは言う。「同じ水準を達成するために小規模な取引を増やす必要があったが、この一カ月で多くの契約が成立した」

 2カ月前までは思うようにカネが集まらなかったことは、オニールも認めている。しかし景気が底を打ったという報道が増えるにつれて、企業やテニスファンの財布のひもが緩みはじめた。

 今年もIBMやJPモルガン・チェースなど昨年と並ぶ21社が企業スポンサーに名を連ね、およそ6000万ドルを投じる。「(全米オープンは)わが社のテクノロジーを示す格好の舞台だから、(出資は)非常に建設的な戦略だ」と、IBMでスポーツマーケティングを担当するリック・シンガーは言う。

 選手の顔ぶれも心強い要因だ。同じく4大大会の一つで、6月末に開幕したウィンブルドン選手権では、ロジャー・フェデラーとアンディ・ロディックが決勝で歴史に残る熱戦を演じた。

平均的な観客は年収15万ドル

 今回の全米オープンでは、フェデラーとラファエル・ナダルの因縁のライバル対決が決勝で見られる可能性もある。さらに現役復帰した女子テニス界のスター、キム・クライシュテルズや怪我から復帰したマリア・シャラポア、ウィリアムズ姉妹など話題の役者がそろっている。

スポーツの域を超えてポップカルチャーの象徴になった選手たちの存在は、多くの一般人をアリーナに呼び込んでいる。「テニスやスポーツが好きなわけではないが、イベントに参加したいという人たちも引きつけている」と、オニールは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は続落、日米交渉を警戒 朝安後は下げ渋り

ワールド

中国共産党機関誌、価格競争の取り締まり呼びかけ

ワールド

米政権の政策、日本の国益損なうものに妥協することな

ビジネス

ユニクロ、6月国内既存店売上高は前年比6.4%増 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 8
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中