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中東に広がる反政府ドミノで生き残る政権はどこか

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2011.05.17

ニューストピックス

中東に広がる反政府ドミノで生き残る政権はどこか

ヨルダン、イエメン、シリアなどで蜂起する反体制派、次に崩壊するのはどこか。

2011年5月17日(火)20時04分
スティーブン・キンザー

 チュニジアのジン・アビディン・ベンアリ大統領が国外に脱出したのは1月14日のこと。2月1日にはエジプトのホスニ・ムバラク大統領が9月の大統領選への不出馬を表明した。同じ日、ヨルダンのアブドラ国王は内閣を解散して新首相を任命し、その翌日にはイエメンのアリ・アブドラ・サレハ大統領が再選辞退を発表。そしてシリアでも......。

 大多数のヨルダン人は今も国王を敬愛している。だが、そこに暮らす100万人以上のパレスチナ難民は、アメリカのイスラエル政策に反対しない国王に不満を抱いている。貧困と腐敗もひどい。国王が腐敗の撲滅や景気対策よりも外交路線の変更のほうが簡単と判断すれば、自らの延命のためにアメリカから距離を置こうとするだろう。

 イエメンに32年も君臨してきたサレハの立場はさらに危うい。アメリカがサレハを支持するのは、彼がアメリカの対テロ戦争に協力してきたからだ。内部告発サイト「ウィキリークス」が暴露したアメリカ政府の外交公電によれば、サレハは国内にあるアルカイダの拠点を米軍が空爆するのを黙認し、それでも「表向きはイエメン軍のやったことだと言い続ける」と米軍幹部に約束していた。

 イエメンはひどく貧しく、紛争が絶えない。サレハは任期切れの13年に退陣し、息子への権力継承もしないと明言した。だが、この程度の約束で国民が納得するだろうか。くすぶり続けてきた内戦の再発もあり得る。

 シリアでも、政治的自由と生活向上を掲げたデモの呼び掛けはある。だがバシャル・アサド大統領の辞任を求める声はない。よその独裁者に比べればアサドは比較的若いし、在任期間も10年そこそこと短い。軍部を掌握しているし、政治姿勢は穏健で改革志向とみられている。

 そして何よりも、アメリカに追従する気配を見せない。イスラエルと妥協しアメリカから支援を受けてきたムバラクと違って、アサドはイスラエルを敵視し、今もアメリカによる経済制裁の対象となっている。

 1月31日のウォール・ストリート・ジャーナル紙でアサドは、自分の政権は「民意と合致している」ので安泰だと語っている。アラブ民衆の怒りはアメリカにすり寄る政権に向いている、だが自分は違うから心配ないということらしい。

反米で勢いづくイラン

 アラブ民衆の反乱は今も拡大しており、アルジェリアやスーダンでもデモ隊と警官隊の衝突が起きている。それでもアメリカに忠誠を誓う政権が2つある。まずはパレスチナ自治政府で、マフムード・アッバス議長は1月29日にムバラクに電話し、「連帯を確認」したという。サウジアラビアのアブドラ国王も、過激派が「エジプトの同胞をそそのかし、治安と安定を脅かしている」と非難してみせた。

 もしも反米勢力が勝利して、両者の親米路線が凶と出れば、彼らの立場はまずくなるだろう。どちらの失脚も、アメリカにとっては大きなダメージだ。

 一方、イランはこの激動を歓迎している。政府高官は民衆の蜂起を称賛し、ムバラクに「民衆の正当な要求の受け入れ」を求めた。中東では、アメリカの影響力が低下するのに反比例してイランの人気が上がる。

 イスラエルと敵対し、中東の親米政権を敵視するイランに、アラブの民衆は喝采を送る。彼らから見れば、アメリカはユダヤ人の横暴を許し、腐敗したアラブの独裁者を擁護し、イラクを占領し、アフガニスタンで戦争を続け、自分たちに爆弾を落とす国なのだ。

 中東の勢力図は、いや応なく大きく変わるだろう。権力を独占してきた者たちも、延命のためには国民の要求をのまざるを得ない。それが民主化につながるかどうかは別として、民意に反してアメリカに追随してきた独裁者たちの時代は終わる。

[2011年2月16日号掲載]

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