コラム

刑務所で写真を独学した男が「アウトライアー」を撮る理由

2017年11月01日(水)11時25分

From Donato Di Camillo @donato_dicamillo 

<人生の多くを刑務所で暮らしてきたドナート・ディ・カミーロは、刑務所内で写真に没頭し、出所後、国際的にも評価される写真家になった。彼が撮るのは、社会の周縁で生きる人たちだ>

今回取り上げる写真家は、生まれも育ちもニューヨークというドナート・ディ・カミーロ。ニューヨークを中心とするストリートシーン、とりわけポートレートの撮影に力を入れている38歳の写真家だ。

人生の多くを少年院や刑務所で暮らし、2012年に出所するまでは、カメラで撮影したことがなかったという。だが小さい頃から、ルネサンス絵画をはじめとするヴィジュアルアートに造詣が深かった父親や叔父から影響を受けていた。

また、20年の刑を受けて入った刑務所では(後に、3年+2年のハウスアレスト〔自宅監禁〕に軽減)、人生の大半を無意味に鉄格子の中で過ごしたくないと、物々交換を通してナショナル・ジオグラフィックやライフ、タイムなどの雑誌をかき集め、写真に没頭し、独学で写真を学んだ。ここ数年で国際的にも評価されるようになってきた写真家である。

カミーロの被写体の大半は、社会の周縁で生活している人たち、あるいは「アウトライアー」(平均的なタイプからかけ離れている人や物)だ。通りすがりで出くわせば、一歩引いてしまうか、あるいは取っつきにくいと思わせる被写体が多いだろう。そうした人たちを、しばしば強烈なストロボを多用し、ディテールをはっきりさせ、至近距離で撮影している。

故ダイアン・アーバス、もしくはブルース・ギルデン、ウェイン・ローレンスの作品を思い起こさせるかもしれない。3人とも、現代のポートレート作家として名を馳せている写真家だ。彼らの作品からは、何かに取り憑かれたかのような匂いやエネルギーが発せられている。実際、カミーロがニューヨークのコニーアイランドで撮った作品を初めて見たとき、私自身、ウェイン・ローレンスの作品と錯覚してしまった。

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル軍がガザで攻撃継続、3人死亡 停戦の脆弱

ビジネス

アマゾン株12%高、クラウド部門好調 AI競争で存

ビジネス

12月利下げは不要、今週の利下げも不要だった=米ダ

ワールド

中国主席、APEC首脳会議で多国間貿易保護訴え 日
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 7
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 8
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 9
    【ロシア】本当に「時代遅れの兵器」か?「冷戦の亡…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story