コラム

刑務所で写真を独学した男が「アウトライアー」を撮る理由

2017年11月01日(水)11時25分

だが、カミーロはカミーロである。とりわけブルース・ギルデンとは全くタイプが異なる。ギルデンは物珍しさから被写体に惹かれ、その個性を最大限に利用しようとしているだけの感がある(少なくとも最近の作品は)。ウェイン・ローレンスの作品には、カミーロと同じく、被写体との親近感に満ちた力強さがあるが――熟練度の違いのためでもあるが――結果としてカミーロのほうが、より荒削りな"生(なま)の生活感"を押し出ている。

むしろ3人の中では、時代が全く違い、強烈なストロボはほとんど使わず引き気味の作品を生み出していたダイアン・アーバスに近いかもしれない。なぜならダイアン・アーバスの作品には、一般的に物珍しいと思われがちな被写体が選択されているにもかかわらず、ほとんど気負いが存在しないからだ。彼女の写真は、最大の目的の1つが、アウトライアー的な感覚を持ったアーバス自身と被写体との撮影を通したコミュニケーションだった。それにより双方の内面的な真実を探り出すことだった。

カミーロにも同じことが言える。彼は自分自身の写真についてこう語った。「作品としている被写体の多くに、彼らの中に、自分自身を感じる。......私にとって写真の目的は、外見じゃない。だって、例えばホームレスに見えても、私が出くわした被写体の大半はそうじゃないことが多いんだから。望んでいるのは、表面的なものではなく、彼らの中にある内面の真実を探り出すことだ」

さらに彼は言う。「最大の目的は、写真を通して自分の中にある真実を見つけること。それを写真で表現したいんだ」

言い換えれば、カミーロは彼自身を撮っているのである。アウトライアー的で過酷な経験をしてきたであろう自分自身を見つめ直そうとしているのである。だからこそ、技術的にはまだ甘くても、作品からは、取り憑かれたような生(せい)の魅力が解き放たれているのかもしれない。

今回ご紹介したInstagramフォトグラファー:
Donato Di Camillo @donato_dicamillo

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=下落、予想下回るGDPが圧迫

ビジネス

再送-〔ロイターネクスト〕米第1四半期GDPは上方

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円以外で下落 第1四半期は低
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story