コラム

中東諸国のカタール断交のウラには何がある?

2017年06月06日(火)15時00分

カタールのタミム首長は37歳という若いリーダー Hamad I Mohammed-REUTERS

<中東6カ国のカタール断交の背景として様々な要因が指摘されているが、イランやISISへの敵対姿勢をはっきり示さないカタールへの警戒感が強まった可能性も>

サウジアラビア、エジプト、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーンの4カ国(これにイエメンの暫定政権とモルディブを加えた計6カ国)は、協調する形で今週カタールとの国交断絶を発表しました。カタールと言えば、サウジ、UAE、バーレーンと共に「湾岸協力会議(GCC)」を形成しており、西側にはフレンドリーなことで一貫しています。スンニ派の首長国という政体も、サウジやUAE、バーレーンと一緒です。

このカタールの首長は19世紀以来、サーニー家の当主が務めてきており、1971年に英国から正式に独立して以降も同様です。ちなみに、現在の首長タミーム・ビン・ハマド・アール=サーニー(タミム首長という言われ方が一般的)は、37歳という若手リーダーです。

そのカタールに対して、これら諸国が断交をしたわけで、サウジなどは外交関係を遮断するだけでなく、陸海空路の交通までストップさせる構えも見せていますので、穏やかではありません。

一部には「カタールが湾岸諸国を裏切ってイランと通じている」などという「容疑」が語られていますが、つい数日前までカタールは、サウジ主導のイエメンにおけるシーア派(ホーシー派)との戦闘に参加していた(現在は除外されている模様)くらいですから、スンニ派のカタールが、シーア派のイランと連携するなどということは、にわかには信じられません。

【参考記事】トランプ「新中東政策」をどう評価するか?

カタールは西側との関係も良好で、特にアメリカは大きな軍事基地を置いています。現在のマティス国防長官が司令官を務めていたこともある米中央軍(セントコム)の前線司令部が置かれていたこともあるぐらいです。

そのカタールが、どうしてサウジ以下の穏健なスンニ派諸国から敵視されるのか、まだ決定的な原因は分かっていません。ですが、とりあえず仮説としては、色々な指摘ができるように思います。

1つは、カタール首長家がスポンサーになっている「アルジャジーラ」放送への反発があった可能性があります。「アルジャジーラ」は穏健なイスラム圏世論を代表するというイメージがありますが、アラブの春を支援したのは事実ですし、エジプトでは「ムスリム同胞団政権」の成立に手を貸したとして、シシ大統領はこれを危険視しています。

バーレーンやサウジも、「アルジャジーラ」の報道姿勢は独裁体制打倒のキッカケになるとして警戒しているということもありそうです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ米政権、ICC判事ら4人に制裁

ビジネス

ターゲット、5─7月売上高は予想上回る 次期CEO

ビジネス

インテル、ソフトバンクに続き他投資家とも資本注入交

ワールド

トランプ氏、クックFRB理事の辞任要求 住宅ローン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 2
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 3
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自然に近い」と開発企業
  • 4
    夏の終わりに襲い掛かる「8月病」...心理学のプロが…
  • 5
    広大な駐車場が一面、墓場に...ヨーロッパの山火事、…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    習近平「失脚説」は本当なのか?──「2つのテスト」で…
  • 8
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 9
    【クイズ】沖縄にも生息、人を襲うことも...「最恐の…
  • 10
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 4
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 9
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 10
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story