コラム

「ベンガジ疑惑」を乗り越えたヒラリーと再び暴言路線を行くトランプ

2016年06月30日(木)16時10分

 これでこの「ベンガジ疑惑」に関しては、ほぼクリアした形のヒラリーですが、残るは「電子メール疑惑」で、こちらは現在もFBIによる捜査が継続しています。現時点では、ヒラリーの側近であるフーマ・アバディーン女史の聴取が断続的に行われているようで、仮に不起訴になるにしても、この時期に捜査が続くということは、政治的には決して良いことではありません。

 そうではあるのですが、もう一つの「ベンガジ」の方がようやく「出口」が見えてきたのはヒラリーには追い風だと思います。

 民主党の中ではバーニー・サンダースが「まだ選挙戦を完全に停止していない」という問題がありますが、こちらもサンダース本人が色々なところで、色々な言い方で「自分はヒラリーと一緒にやっていく」という意思表明を始めているので、党内の「完全一本化」は時間の問題になってきています。7月25日からフィラデルフィアで開催される党大会までには、一本化と副大統領指名にこぎつけて、いよいよ本選への戦闘態勢が整うことになりそうです。

 一方、共和党のトランプですが、一時は「チルドレン」が主導する形で「常識的な言動」へ振っていく動きが見えたものの、ここへ来て相変わらず「暴言・失言」が止まりません。

【参考記事】ブレグジットがトランプの追い風にならない理由

 例えばヒラリー支持を打ち出して一緒に演説会をやった民主党のエリザベス・ウォーレン上院議員に対しては、アメリカ原住民(インディアン)の血を引いていると自称するのは「レイシスト(人種差別主義者)」だとして、彼女には「ポカホンタス」という蔑称をつけて揶揄しています。

 ポカホンタスというのは、17世紀のインディアンの族長の娘で白人と結婚した伝説の女性で、ディズニーがアニメ映画にするなど「原住民と白人の和解の象徴」になっています。では、どうしてウォーレンがポカホンタスなのかというと、「原住民の血を引いていることを偉そうに語る」ウォーレンの「嘘くささ」や「政治的正しさの利用」は、ポカホンタスの存在が「白人と原住民はフレンドリーだった」という「嘘くささ」に重なるからということのようです。いずれにしても、下品で攻撃的な中傷にほかなりません。

 また、今月28日にイスタンブールで起きたISISと見られる一味による爆弾テロ事件に関しては、直後の演説で「爆弾(ファイヤー)には爆弾(ファイヤー)で応酬してやる」とか、「テロ容疑者は水責めで自白させなくてはダメだ。俺は、水責めは良いやり方だと思う」などと放言し、共和党の本流政治家からは早速、反発の声が上がっています。

 今回のテロ事件を受けて、瞬間的にトランプの支持が上がったという調査結果もあるようですが、全体的には「いつものように暴言で即反応」という姿勢は、決して説得力を持っていないようです。

 そんな中、7月18日からオハイオ州のクリーブランドで行われる共和党大会が迫ってきていますが、今でも「予備選結果を緊急避難的に無視しての自由投票」を模索する動きがある他、そもそも「党大会に行くのを止める」とか「参加費を払いたくない」などといった雑音が絶えません。共和党の側は、党内の団結には程遠い状況が続いています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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