コラム

保守派からも見放された「ブッシュ・ファミリー」の憂鬱

2015年11月10日(火)16時10分

 この点に関して言えば、ジェブという人は、兄とは比較にならない知識人であるとか、あるいは経営者としての成功経験のある中道実務家だという評価があり、さらにはメキシコ出身のコルンバ夫人との家庭を通じて、ヒスパニックの人々に強い支持を受けているなど、兄の支持基盤とは異なる中道票を獲得できる人物である、そう言われていました。

 仮にそうした路線で行くのであれば、「Jeb!」のロゴを使いながら、イラク戦争を遂行した兄とは全く異なる政策、キャラクターであることを売り込んでいけば良かったはずです。ですが、その主張が強すぎると、今度は「兄のジョージのレガシー(遺産)を軽んじた」として、共和党の中の根強い「草の根保守」の離反を受けることになります。

 この点に関して、ジェブは結局その態度が定まっていない印象を与えてしまいました。一度は「兄のように自分もイラクに侵攻したかもしれない」という言い方で、兄と兄の支持層を「立てて」おきながら、別の機会には「イラク戦争には問題がある」というようなことを言って「どっちつかず」という評価がされたのです。

 そのように腰が定まらないことで、ジェブは「本当は相当に中道なのに、兄に遠慮して保守にも気を遣っている」という「スッキリしない」イメージを与えてしまうことになったのです。

 そこへさらに妙な事件が起きました。「ブッシュ(父)」について、本人が公式に認めた評伝が出版されるのですが、その中で父は「ジョージ(兄)の2人の側近」すなわち、ディック・チェイニー前副大統領と、ドナルド・ラムズフェルド元国防長官をハッキリ批判していることが分かったのです。

 これには、まず保守派が怒っています。イラク戦争の口実となった「大量破壊兵器」は「存在しなかった」かもしれないし、その点でジョージ(兄)も反省していることは知られています。ですが、それでもチェイニーとラムズフェルドの遂行した戦争は、9・11直後の危険な状況の中では「仕方がなかった」という考え方が今でも保守派の中にはあります。そして、当時のブッシュ(父)はそれを黙認していたのに、今になって批判するのはどういうことか、というわけです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億

ビジネス

アップル、新たなサイバー脅威を警告 84カ国のユー

ワールド

イスラエル内閣、26年度予算案承認 国防費は紛争前

ワールド

EU、Xに1.4億ドル制裁金 デジタル法違反
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 2
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開きコーデ」にネット騒然
  • 3
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...ジャスティン・ビーバー、ゴルフ場での「問題行為」が物議
  • 4
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 5
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 8
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 8
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 9
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 10
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story