コラム

人種対立暴動の背景にある3段階の差別とは

2014年11月27日(木)13時41分

 ミズーリ州ファーガソンでの白人警官による黒人少年射殺事件について、11月24日夜に大陪審が警官を不起訴の決定をしたことを受けて、現地では暴動が発生してしまいました。2夜連続して自動車や商店への放火を含む激しい暴力行為が続き、2日目だけで44人と多くの逮捕者を出しています。

 また抗議行動は全米に拡大し、現場に近いセントルイスをはじめ、シカゴ、ワシントンDCからロサンゼルスまで各地で発生しました。ニューヨークではタイムズスクエアが占拠される事態に対して、今年就任したデブラシオ市長はあくまでソフトな警備を指示しており、大きな混乱はありません。ですが、保守系のジュリアーニ元市長は「全国的には黒人同士の暴力行為が圧倒的に多い。それを収める白人警官こそ被害者」というような発言を続けており、事件に対して国論が分断されていることを象徴しています。

 この事件ですが、発端は白人警官による黒人少年の射殺という事件であり、それが今回は「不起訴」になったことが問題を大きくしました。そこに「人種差別」があるという認識が、抗議デモの背景にはあります。

 では、事件の背景に「差別」があるとして、そこにあるのは典型的な人種差別、つまり「白人が上位で有色人種は下位」というような「侮蔑、優越の心情」なのでしょうか?

 仮にこれを「第1の差別」だとしましょう。これは今回の事件には当てはまらないと思います。白人警官は「黒人青年は劣った存在だからその人命を奪った」のでもないし、大陪審は「被害者が黒人という下位の存在だから警官を不起訴にした」のでもないと考えられるからです。射殺という行為、あるいは不起訴という決定の背景にあるのは、そうした「侮蔑、優越の心情」ではないと思われます。

 そうではなくて、そこにあるのはおそらくは「無理解による誤った恐怖」です。ウィルソンという白人警官は、18歳の黒人青年マイケル・ブラウン氏と口論になった際に、「図体の大きい相手への恐怖感」を感じ、また「口論の中における敵意」を感じたのではないでしょうか。

 その場合に、無意識の感覚として、相手が白人であれば感じなかったような「ヤられるかもしれない怖さ」を感じた可能性、そして「黒人の俗語における強度の敵意表現が実は単なるレトリックだというニュアンス」が分からず、身の危険を感じてしまったという可能性があります。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

英ユダヤ教会堂襲撃で2人死亡、容疑者はシリア系英国

ビジネス

世界インフレ動向はまちまち、関税の影響にばらつき=

ビジネス

FRB、入手可能な情報に基づき政策を判断=シカゴ連

ビジネス

米国株式市場=主要3指数最高値、ハイテク株が高い 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 6
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 7
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 8
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 9
    AI就職氷河期が米Z世代を直撃している
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 9
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 10
    琥珀に閉じ込められた「昆虫の化石」を大量発見...1…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story