コラム

初の「エボラ発症」でもアメリカ社会が平静な理由

2014年10月03日(金)12時35分

 それでも今のところダラス、そしてテキサス州ではパニックのような反応は起きていません。例外は、患者の子どもたちが通っていた学校で、ここでは児童の数名が要観察の指定を受けるなど影響が大きく、保護者の間にも不安は広がっているようです。ですが、それ以外は現時点では平静です。

 どうして平静なのかというと、まず最初に「アフリカで発症したアメリカ人医師たち」をアメリカ本土に移送して治療した際に、キチンと情報公開がされたことが指摘できます。ビジュアル的にはかなりインパクトのある、防護服や隔離カプセルなどを使った移送作戦などについて、三大ネットワークもケーブルニュースもかなり時間を取ってしっかり報道していました。

 結果的にアメリカ人の医療従事者で感染した3人は治癒したのですが、その後、TVでインタビューに応じて、生還できたことへの感謝とともにエボラウイルスの恐怖と西アフリカの惨状に関して訴えたのも、この病気に関する正確な情報の拡散に寄与したと思います。

 また今回のダラスでの発症事例でも、例えば病院の初動の大きなミス、そして動揺した家族と当局との意思疎通のすれ違いなど、「ネガティブ情報」がしっかり報じられたことも評価できると思います。問題が起きてしまった以上は仕方がないし、結果的に情報公開の姿勢、そしてCDCのリーダーシップに関しては、世論の信頼を得ることにつながっているようです。

 報道機関の姿勢も同様です。例えば初期の「感染した医師の国内移送」に関しては、保守のポピュリストと言って良い、経営者のドナルド・トランプ氏が「米国内に移送して治療するのは危険であり反対」などという論陣を張りました。ですが、これは政権自らが「そうではない、アメリカが治療法を確立することがアフリカの人々にも、アメリカにも利益になる」と宣言して一蹴、報道もその立場を支持しました。

 オバマ政権、特にスーザン・ライス大統領補佐官と、サマンサ・パワー国連大使は、このエボラ出血熱の問題を、中東のISISの問題と同様に、地球規模の危機と位置付けて、アメリカとして関与していく姿勢です。最終目標は、アフリカにおける流行の根絶ですが、その長い道のりへ向けて、まずはダラスのケースをどう抑えこむかが試金石になると思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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