コラム

初の「エボラ発症」でもアメリカ社会が平静な理由

2014年10月03日(金)12時35分

 これまでアメリカ国内では、搬送されたエボラ出血熱患者を3人受け入れており、その全員の治療に成功しています。この3人はいずれも医師などで、エボラウイルスの流行地に赴いて診療を行っているうちに感染しました。最初の2人はジョージア州で、残りの1人はネブラスカ州で、それぞれ隔離の上で治療が行われました。

 これに続いて、今回は初のケースとして米本土に入ってから発症したリベリア人の男性に関して、現在テキサス州ダラスで隔離の上、治療が行われています。同時にこの患者が発症後に接触した家族などの人々に関しても、隔離の上で観察措置が取られています。

 現時点では、患者は重篤ではあるけれども安定した容体と発表されています。隔離もしくは観察対象になっている人の中からは新たな発症者は出ていません。

 ですが、この時点に至るまでにも、医療機関のミスも含めて、感染を広めた「かも」しれない「危ない」行動というのは出ていると報じられています。

 まず問題になっているのは、現在、患者が入院しているダラスの病院のER(救急センター)です。このセンターでは、高熱と下痢の症状の現れた時点でこの患者を診察しておきながら、そして「西アフリカからの渡航者」ということも確認しながら、抗生剤を処方して帰宅させるというミスを犯しています。

 2日後に症状が重くなった患者の家族は、病院は信用出来ないからと、CDC(米疾病対策センター)に直接電話をしてアドバイスを受け、驚いたCDCがすぐに救急車を呼んで入院するよう指示。結果的に同じ病院で診察を受け、直ちに隔離・治療となりました。この「発症後の比較的軽症であった2日間」に感染が起きた可能性は否定できず、病院は大きな批判を浴びています。

 現在は、患者のパートナーと子どもたちなど4人が、そのアパートからの「外出禁止措置」を受けるという形で事実上隔離されています。彼等に関して当初テキサス州としては「ソフトな隔離」を試みたのですが、取り決めに反して隔離中に「住宅の外に出る」という行動があったために、現在は武装警官が家を封鎖するという措置になっています。

 このギクシャクした対応ですが、CDCからは患者が発症後に使用していた寝具類やタオルなどから感染が広がる可能性があるので、バイオハザード扱いで処分するよう、この家族に指示したのだそうです。そこで早く処分をと家族が焦る一方、処理部隊は来ない、そんな中で、家族が外の様子を見に出てしまったという説明が家族側からされています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中外相会談、ロシア支援に米懸念表明 マイナス要因

ビジネス

米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比+2

ワールド

ベトナム国会議長、「違反行為」で辞任 国家主席解任

ビジネス

ANAHD、今期18%の営業減益予想 売上高は過去
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story