コラム

「ジョブ型雇用」はまず経理部から導入してはどうか?

2013年08月22日(木)13時30分

 日本でも「ジョブ型雇用」の議論が始まりました。いわゆる専門性を評価しての雇用ということですが、別に新しいものではなく、医師とか薬剤師、税理士あるいはプロスポーツ選手など、中には雇用契約ではなく個人事業主の場合もありますが、大きく考えれば「ジョブ型」の雇用というものは昔からあったわけです。専門的な職工さんとか調理師などもそうです。

 ですが、一般的な企業の場合は、終身雇用の中で「専門性はないが、その会社独自のカルチャーに根ざした調整能力は抜群」という、いわゆる「メンバーシップ型雇用」の人「だけ」が企業の上級管理職になれるわけです。その一方で、特に一般のサービス業や製造業の現場では、「ジョブ型」というものが「格下」に位置づけられている、そこに問題があります。

 こんな制度はグローバルなビジネスの世界には、ありません。管理職とか経営者というのも、「ジョブ型」というのが世界標準です。ですが、現在進行している議論の中に多いのは、日本独特の「メンバーシップ型」は温存しながら、これからの若手の採用は「ジョブ型」にして「非正規よりはまし」だが「過去の正社員よりは低い」処遇の存在にして置き換えつつ全体の効率化を図ろうというわけです。

 例えばコンピュータ関係の技術者など「潰しの利かない」人材は「専門職」だからということで、子会社採用にして「本体の総合職」の処遇はしないという慣行が大企業にはあります。今回の「ジョブ型」採用という議論には、そうした「専門職を専門職として採用する」ということの範囲を拡大する一方で、「本体の中」に置いておいても「正社員よりは低い処遇」にして格差をつけることが「可能」という考え方があるわけです。

 では、「幹部候補生」はどうするかというと、相変わらず「総合職というメンバーシップ」として採用して「色々な職種を経験」させ、地方や海外を含む転勤命令にも従順に従わせる代わりに「これだけ苦労している」という「社内政治的なハク」をつけて管理職候補に「育成」する、こうしたやり方は当面は変えるつもりのない企業が多いのだと思います。つまり「メンバーシップ型雇用」を維持しつつ、そこには「参加させない」形で「ジョブ型」を増やすという方向性です。

 ですが、こうした「微温的な改革」では難しいと思います。勿論、改革を加速しないと国際競争に生き残れないということがあります。仮にアベノミクスの結果として債券安と円安が暴走した場合には、それこそ競争力のある部分は外資に食われ、競争力のない部分には激変が待っているかもしれません。その結果として「占領軍」として「ジョブ型人材としての管理職や経営者」がグローバルな世界から入ってきた場合には、スキルの低い人材は「いいようにリストラされる」というシナリオが描けます。

 ただ、この「改革を加速せよ」という論議以前に「ジョブ型」への改革に本気で取り組まないといけないというのには、もっと具体的な理由があります。というのは、「ジョブ型人材」のスキルを与えるのは教育であり、本当に「ジョブ型」を成功させるためには、それに見合った教育の体制が必要になるという問題です。この「教育をどうするのか?」という問題は避けて通れません。

 人材の育成には時間がかかります。就職から逆算して高校生の大学選び、あるいは高校の選択科目選びなどまで遡ると、基本的に「7年後の改革」を教育は先取りしていないといけないし、逆に言えば今手を付けても7年という年月がかかるわけです。では、どんな職種をターゲットにして、どんな職業教育を行うのがいいのでしょうか?

 例えば、営業やサービスというのは雇用の規模はありますが、市場の変化が激しく公教育では追いつけないと思います。本当は、コミュニケーションのスキル、ウェブやSNSを使ったセールスのスキルなどは、「最先端」が大学で学べる方が社会全体としては効率的ですし、若者のキャリア形成にもいいと思います。ですが、現状では「非対称で非効率な対人コミュニケーション」が現場を支配する中で、「ジョブ型」として「対抗していけるスキル」を公教育で用意するというのは「改革の入り口としては非現実的」と思います。

 文書作成やデータ整理など、「事務仕事」に関してはニーズはあるでしょうが、大学で職業教育を行うほどの付加価値の生産は難しそうです。人事労政がらみ、法務がらみの事務もありそうですが、こちらはグローバル化が進めば、本社機構は極端に簡素化され、弁護士事務所や社労士事務所などの「専門ファーム」が機能を担っていくでしょう。そうしたキャリアパスはあると思いますが、付加価値生産性がやはりネックです。

 公務員に関して「公共サービス学科」などを作って、大学から専門的な勉強をさせて「即戦力」にするという考え方はあると思います。ですが、妙に人気化して優秀な人材が殺到した場合に、それが国を富ませることになるのかは分かりません。ですから「真っ先に手を付ける」対象とは違うと思います。

 そこで浮かび上がるのが「財務、会計」、つまり「経理部」の仕事です。現在も、大学には会計学や商学という専攻がありますが、それほど高度なものではありません。また大学で教える内容と、各会社のそれぞれの実務には「ズレ」があります。そのために、経理部の「管理職候補」には「数字に強く真面目な学生」を入れて「OJT」で育成するというのが多数派になっています。

 一方で、商業高校や専修学校の会計や簿記、税務といったコースもありますが、現在のままではコースの内容は「ジョブ型正社員」に期待されるスキルレベルには達しないと思われます。もう1つ、日本の企業の場合は、各業種、各社の「財務会計」が「自己流」になっている傾向があり、そのために、会計資格の有資格者はそもそも少ないばかりか「社内」に配置することは少ないのです。

 そこで、大学の「財務会計」を会計士や税理士資格に近いレベルに引き上げるとともに、「英語に完全に対応する」中で、国際会計基準での会計業務、国外の連結対象子会社の管理、英語で運用される汎用ソフトへの対応、なども含めてレベルアップしていくのです。そうして「手に職を付けさせる」中で、教育とキャリアの一致、そして「ジョブ型雇用」の地位向上と企業の内部からの国際化を推進するのです。

 その場合に、過去の新卒一括採用システムに乗れなかった若者や「ロスジェネ」の年代にもチャンスを与えるために、大学も、企業の採用も年齢制限を撤廃すべきです。そうして、ジョブに見合う給与水準を確立するのです。企業経営の透明性確保と国際化、若者へのセカンドチャンス付与、教育と雇用の一貫性など「ジョブ型」導入を「一石三鳥・四鳥」で狙う中で、新しいトレンドができれば「ジョブ型」は他の職種にも広がっていくのではと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)、『アメリカモデルの終焉』(東洋経済新報社)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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